110フィルムとポケットカメラ
1972年 コダックは110カートリッジフィルムを使った新システムで大攻勢をかけてきた。小型簡単を特徴にした「ポケット」システムで、カメラもトイカメラのような簡略化されたものから写りの良い高級機まで揃えた。
35mmフィルムコンパクトカメラのトップメーカーだったキヤノンは、このコダックの110攻勢に対して、さらなる高性能機で対抗した。
1975年に登場した CANON 110 EDは、小さな110カメラのボディに、高性能自動露出、距離計連動、日付写し込みの機構を詰め込み、ライバル「Kodak Pocket Instamatic 60」のf2.7(3群4枚構成)を上回る口径比f2の明るい高性能レンズを搭載した。
4群5枚構成でf2を達成している。下図はカタログを参考にした構成図になる。
110フィルムはカートリッジ型のため、フィルム前に機構スペースが取りにくい欠点がある。そのため、レンズ前に絞り/シャッターを置く構成が多い。この110EDも(通常の35mmコンパクトカメラとは逆向きに)前絞りレイアウトになっている。
通常とは逆に絞りが前にあり、レンズ構成も前後逆にしたゾナーのようだ。
参考にゾナー構成をもったコンパクトカメラ、NIKONL35AFの例を挙げる。レンズ構成がほぼ前後逆になっている。
カメラを分解してみると、レンズは一体のユニットになっていて細かい構成は読みにくい。
レンズは高性能な高屈折レンズが使われているらしく黄変している。
放射線も発生していて、0.47マイクロシーベルト(自然放射の10倍程度、ぜんぜん危険ではない)ほど検出された。酸化トリウムガラスを使ったアトムレンズかもしれない。
このレンズ、明るい上によく写るのだが、高屈折低分散レンズでゾナー構成と思うと、さもありなん、という気がしてくる。
カメラから分解したレンズをデジカメ用に改造するのだが、今回は以前のものが壊れたため再改造になる。さあ再改造。今度は壊れない改造レンズにしよう。
せっかくの高性能レンズなので絞りは4段階ターレット絞り。2mmの鋼球でクリック感。フォーカスはヘリコイドアダプターを使うことで近距離まで対応できる。フードはいるかな?まずは無しでいってみよう。
絞りは前側、開放f2からf8まで絞れるように設定した。バネと鋼球によるクリック感は3Dプリンター製のプラスチックでも気持ちが良い。
110フィルムはマイクロフォーサーズとほぼ同じイメージサイズだが、一回り大きなAPSデジタルではどう写るだろうか。
結論を言うと、開放なら写るが、4隅は結像しない。絞ると隅は蹴られる。せっかくの高性能レンズなので隅がボケて使うのはもったいない。110フィルムカメラと同じイメージサイズのGM1(マイクロフォーサーズ)につけて撮影しよう。
さて、このキヤノンの気合いの入った高性能110用レンズ、f2開放で撮ってもしっかりと描写して、背景をキレイにボカせます。逆にいうと、マイクロフォーサーズの標準レンズで背景をぼかすならf2以上の口径比が欲しい。
現代レンズならば明るいレンズはありますが、安価で遊べるオールドレンズ改造では、CANON 110 EDの 26mm f2は特徴的です。
ボケはキレイです。画面全体に均質に、2線ボケをフレアで溶かしたキレイなボケです。距離によって滲んだ水墨画のようになる時もあって楽しめます。
キレイな発色も特徴です。ゾナータイプのレンズ構成は色がキレイにでる特徴がありますが、キヤノンは色の鮮やかさにこだわるメーカーですので、キヤノンらしい発色でもあります。
絞ると、さらにシャープになります。絞りが効くレンズで、今回のデジタルカメラ向け改造のポイントで、絞りをつかって描写の変化を楽しめるようになりました。
CANON 110EDは、小さな110フィルムの性能を上回るような良いレンズを持っていて、当時の開発の意気込みを感じました。
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