KODAK おもしろカメラ パノラマ:おもしろい「でっこまひっこま」レンズ体験 / Kodak Stretch 35: The interesting image curvature lens experience.

 


KODAK おもしろカメラ パノラマ/KODAK Lens 25mm f12




1986年、いわゆる使い切りカメラ「写ルンです」はフジフィルムから発売された。当時あった物品税の回避や、身近なスーパーマーケットなどのフィルム売り場で売りたいことから、カメラではなく「レンズ付」フィルムとして売られた。


大ヒットになった「写ルンです」に対抗するために、コダックは変化球を用意した。「写ルンです」の望遠や接写タイプの隙間を縫って、広角レンズのパノラマ専用使い切りカメラを用意したのだ。


1989年にコダックによって設定された横長のパノラマ写真は、35mmフィルムの上下をトリミングされており、専用のプリント設備を必要とする。使い切りカメラは必ず自社の現像工程を行うことからコダックは問題なく新フォーマットを導入することができた。このトリミングによる簡易パノラマは1990年代の流行になった


1989年発売の「KODAK おもしろカメラ パノラマ」 は大ヒットし、フジフィルムを10か月だけリードすることができた。(フジフィルムは同様のフォーマットを持つ対抗機種「写ルンですパノラミック」を半年ちょっとで開発した。なかなかのハイペースだと思う)


今回はそんなコダックの「KODAK おもしろカメラ パノラマ」がテーマだ。


初期の使い切りカメラらしく、「紙箱」デザインだが、特徴がある。

一つは立派なフードがついていること。携帯性が重要なコンパクトカメラでは珍しい。ノンコートプラスチック広角レンズには必要だったのだろう。

二つ目はレンズに銘がかいてある!

ちゃんとKODAK Lens 25mm f12 と書いてあるのがうれしい。コダックの「フィルムではなくカメラである」という主張が感じられる。





レンズはメニスカスレンズ2枚、レンズの大きさに差のある「変形」対称型レンズ構成。(スケッチは目測で正確ではない)

大きな像面湾曲があるようで、その補正のためフィルム面を大きく曲げている。中央に対して、左右で1.5mmバックフォーカスが短くなっている。この方法だと左右方向の像面湾曲は修正できるが天地方向は補正できない。左右に広く天地に狭いパノラマ写真に適した構成だ。

カメラの裏面。フィルム面の湾曲が見える。

このレンズを改造、デジタルカメラで撮影するのが今回のテーマだ。

レンズは真ん中に固定絞りがある2枚ユニットになっている。レンズ後面から結像面までのバックフォーカスは19mmほど。M42マウントをつけてヘリコイドアダプターでデジタル用レンズになる。



パノラマ用のフードは横長だが、装着位置を調整してフルサイズでも蹴られないようにした。さあ、撮影。



撮ってみると、やはり大きな像面湾曲がある。
中央にフォーカスすると周辺はボケる。中央の描写は悪くないが、右側の木の「ハナモモ」表示は、被写界深度外でボケている。


あと、フィルム面を湾曲させるレンズは、フラットなデジタルセンサーで撮ると糸巻き型の歪曲収差がでる。これは仕方がない、、、





強い像面湾曲収差があるが、世界は平面ではない。実写では立体感のある写真が得られた。「でっこまひっこま」ですね。

木村伊兵衛さんの「でっこまひっこま論」は、世界は立体的だから像面湾曲は撮り方次第で悪いものではない、みたいな話だったと思う。

このレンズのフォーカス面は画像周辺では近距離になり、中央では遠景にひっこんでいる。その効果として、中央に置いた被写体の立体感が強調され、より凸ってみえる。なるほど「でっこまひっこま」だ。


手すりは遠景から近景までフォーカスがあっているのに、背景はボケて被写体が浮き上がる。うまくいくと面白い。



解像力は高くなさそうだが、背景のボケと合わせて立体感を感じる描写。周辺減光もいい感じだ。



はじめ、ボケボケの周辺描写を見て、どうかと思いましたが、撮ってみるとよいレンズです。中央の被写体が強調される「でっこまひっこま」効果の面白さを感じます。

ライバルの「FUJIFILM 写ルンです パノラミックHi」のレンズのほうが優等生ですが、「 KODAK おもしろカメラ パノラマ」も面白い良いレンズでした。

もちろんより複雑なレンズ構成を持つ一眼レフ用のレンズのほうが圧倒的に高性能です。でも2群2枚のミニマム構成ならではの良さも、きっとあると思うのです。















アクションカメラをファインダー付きDマウントカメラに改造する。Convert an action camera into a D-mount camera with viewfinder.

 




アクションカメラもこなれてきて、安価な中国製の、さらに安価な中古も出回ってきた。

今回はそんな安価なアクションカメラを改造して、Dマウント シネレンズ用カメラを作りたいと思う。


安いアクションカメラから、そこそこの評判のClosstour 4Kモデル(CT8500)
の中古を購入した。

アクションカメラに注目した理由は、

1.センサーサイズは小さいが、8mm シネレンズと組み合わせは相性がいいはず。
2.小さいモニターがついている。VRゴーグル用レンズと組み合わせれば、ビューファインダーになる。その場合小さいモニターのほうが相性は良い。
3.ボディがコンパクト。ビューファインダーは大柄になるが、本体が小さければコンパクトにまとまる。


背面にそこそこの解像度のモニターがついている。それを利用してビューファインダーにする。ピーキング表示のないモニターでマニュアルフォーカスを操作するためには、ビューファインダーが必須だ。


アクションカメラに装着されている広角レンズを外す。
レンズ交換式ではないので、接着されたものを無理やり外して、Dマウントを装着する。

想定よりもセンサー位置は深く、Dマウントのフランジバック合わせは苦労した。
センサーに赤外線カットフィルターがないので、レンズから外してセンサー前に両面テープで着ける。適当なので、落ちないといいな。

センサーサイズは1/3.2インチか。4.5x3.4mmになるので、8mmフィルム(ダブル8)のサイズに近い。ただしシネカメラは画角が狭いので、もう少しセンサーサイズが大きいほうがよかった。


マウント位置の調整を行ったら、バッテリーケース内に干渉してしまった。マウントが邪魔してバッテリーが入らない。




仕方がないので、配線を引き出してバッテリーを外付けにする。3Dプリンターでバッテリーケースを製作したが、防水になっていないので、雨天厳禁仕様だ。

ビューファインダー、バッテリーを合わせて3Dプリンターでボディを作る。
配線の引き回しやらレンズの干渉、バックフォーカス調整などなかなか苦労する。

一度内部スイッチの細い配線のハンダが外れて、細かい作業に苦労もする。その過程で液晶パネルにゴミが入ってしまった。
分解掃除すればキレイになるがまた配線を切りそうで、ゴミは見なかったことにする。見えるけど。

産業用みたいな小さな四角いカメラができた。
四角い理由は、背面のビューファインダーが大きい。背面モニターをVRゴーグル用レンズ(汎用品が売っている)で見るファインダーだ。
これで、明るい屋外でもマニュアルフォーカスが合わせられる(はず)。

Dマウントで、古いシネレンズが活用できる。
シネマ撮影では、低速シャッターが使えないので、レンズが明るい必要がある。8mmシネカメラは1955年くらいから普及し始めて、当初はDマウント交換式の明るい単焦点レンズが好まれた。(1960年代になるとズームレンズが一般的になってレンズはボディに固定される)


ZUNOW cine 13mm f1.9 で撮影。f5.6くらいに絞っている。



色が、昭和のネガカラーだ。日付が写ってしまったのもネガカラー写真っぽい。

カメラは2019年のモノなので、センサーは現代のもの。赤外線フィルターは取り外したレンズに付いていたものを、外してセンサー前に移植している。


色が「昭和」なのは、レンズのせいだ。マルチコーティング技術のない時代なので、レンズ材質で色彩が変化するのだろう。

ZUNOW cine 13mm f1.9 は、1950年代後半、8mmシネカメラ大手YASHICAなどの標準レンズとして普及した名レンズだ。

シネ撮影は画角の狭いレンズを使うので、標準レンズといっても100mmくらいの中望遠になる。画角の広い魚眼レンズを使う現代のアクションカメラとは真逆の撮影法だ。



絞りを開ければ、背景はそれなりにボケる。ボケ質は悪くなさそうだが、少しざわついても見える。ボケがスムーズになりにくいのは、小さなセンサーの影響かもしれない。





少し絞ったほうが、やはりシャープだ。
レンズは鏡胴から奥まっていて、フードは不要な感じだが、左側にゴーストがでた。


ZUNOW cine 6.5mm f1.9
6.5mmは標準画角。レンズ構成的にはレトロフォーカスで広角的。
レンズが少し曇っているところがあって、f1.9開放だと、ハイライトがにじむ。


絞れば描写はしっかりする。レンズのレトロフォーカス構成の影響で、樽型の歪曲収差がでている。もっとも、動画ならあまり気にならないだろう。


光が入ると、フレアーがでる。レンズコンディションがあまりよくないからかな。

高感度では描写は悪化する。これも小さなセンサーの影響。


改造した四角いカメラは、持ちにくいので両手で持ちたくなります。でも、角を持ちやすく、重量も軽いので、使い勝手はそれほど悪くはありません。

ビューファインダーに改造したので、背面モニターよりもフォーカスは合わせやすくなりました。しかし小さなシネレンズは被写界深度が深く、6.5mmは特に苦労します。目測で合わせたほうが速くて正確だと思いますが、ZUNOWはフィート表示なので、計算する必要があって面倒です。



いままでDマウントレンズの運用として、WEBカメラやトイカメラを改造していましたが、今回、現代のアクションカメラをベースにすることで画質は大きく向上しました。といってもスマホのカメラとあまり変わらない気がしますが。

小さいセンサーなのでボケはあまり期待できませんが、寄って絞りを開ければ背景はボケます。その一方で描写が平面的に見えるのは、諧調表現に限界のある小さなセンサーでは仕方がないのかもしれません。

レンズはZUNOW cine 6.5mm / 13mmとも開放だとフレアがでて、描写も甘めです。
絞ればかなりシャープになりますが、平面的な描写になりがちな事もあり、スマホのカメラと同じ(焦点距離だけが違う)になってしまう気もします。

一方、ファインダーを覗いて撮影する行為は面白いです。
動画も静止画も広角レンズで「だらっと撮る」スマホに比べて、「四角いカメラをムービーのように持って、画角の狭いレンズで主題を切り取る」のは新鮮です。

カメラの持ち方・覗き方で写真を撮る面白さが変わる。面白いですね。













YASHICA 8 : 8mmフィルム シネカメラ をデジタル化、WEBカメラにする。8mm film cine camera to be digitized and used as a web camera.


1950年代の8mmシネカメラは、ズームレンズの普及前なので単焦点レンズがついている。レンズは、ターレットで回転交換できる独特の形をしていた。

8mmフィルムはフォーマットサイズが3.3×4.5mmの極小サイズ。レンズも6.5mm  13mm   38mm と小さく、標準的なものでもf1.9~f1.4で、明るく高性能だ。


そのたたずまいの面白さと高性能なレンズを活用するために、デジタル改造したい。手軽な改造として、WEBカメラの中身を移植することにした。

WEBカメラで一般的な1/3インチセンサーは3.6×4.8mm。8mmフィルムとほとんど同じサイズである。


今回ロジクール(Logitech )のC600を使った。2009年発売の200万画素CMOSセンサーモデルだ。ボディがコンパクトなので基板も小さく、縦長の8mmカメラに収まるかもしれない。

スマホ外付けカメラとして改造したモノの再改造になる。



球体のWEBカメラ、C600から基板を外す。基板についていたレンズを外すとCMOSセンサーに赤外線センサーがついている。フィルターがセンサーについていると改造が楽だ。


もともと角を落としたミニマムな基板だが、8mmカメラに収めるにはサイズがギリギリなのでさらに落とせるところを落とす。

一方、ジャンクで買ったYashica-8からはシャッターとフィルム送りの機構を外す。フィルムがあったちょうどよい場所にセンサー基板を置けばWEBカメラになる。




ちょっとだけボディ内に収まらなかったので、3Dプリンターでカバーを作る。



Yashica 8は1957年発売。8mmシネカメラ初期の規格で、たくさん売れたのだろう、オークションでも最もよく見る機種の一つである。今回の改造で雰囲気のあるWEBカメラになった。Dマウントなので、好きなオールド シネレンズが交換しながら使える。

通常のWEBカメラは広角レンズがついているが、8mmフィルムカメラでは6.5mmでも標準画角、13mmは中望遠の画角になる。昔のシネ撮影は画角が狭かった。



YASHICA Claston 6.5mm f1.4
明るいレンズだが固定焦点。近距離を撮る時はマウントを緩めてフォーカスすることになる。

センサーサイズは小さく高感度は得意ではない。Webカメラは室内撮影なので、なるべく明るいレンズが良い。私の環境だとf1.9は暗く、f1.4が欲しくなる。


Dマウントの6.5mmは最も広角のレンズで、レトロフォーカスのレンズ構成。開放f1.4だとフレアがかった少し甘い描写になる。もっともWeb会議で自分をアップで撮る分には、ちょうど良いくらいだ。


ひとつ絞ってf2、フレアは消えてシャープになった。モノ撮りするなら少し絞った方が良い。

WEBカメラのセンサーは、簡単に白飛びしますね。



YASHICA Claston 13mm f1.4
カメラは被写体で、今回のレンズとは関係ない。DiMAGE7 かっこよかったな。今持つとデザインに気合が入りすぎていて、気恥ずかしい気もする。

8mmでは標準と言われる13mmだが、中望遠の画角で室内には狭い。開放f1.4から描写は悪くない。背景もボケる。


少し絞ると描写は良くなる。


開放f1.4 ボケのフレアーは良いが、白飛びしすぎ。


f2 少し絞ればフレアーは消える。
赤もつぶれやすい。WEBカメラのセンサーはコントラストの小さい屋内用ですね。



今回の改造の目的は、味気ないWEBカメラの外観と描写を、エモーションあふれるものにすることです。

仕事環境に「クラシックカメラ改造WEBカメラ」を置くと、気分が盛り上がります。ターレットでレンズ交換もたのしい(実用的には、中望遠画角の13mmはほとんど使わない)

前に改造したモノよりも、センサーサイズが気持ち大きく、高感度も強いので使いやすくなりました。(以前の改造。基板が大きくはみ出している)

カメラのファインダーも使えるのですが、フォーカスを見るにはPC画面が必要で、撮影の機動性は悪いです。結果、一般撮影は難しくWEBカメラ専用になっています。

描写は、PC内蔵の広角レンズに比べて背景もボケます。6.5mmよりも13mmのほうがシャープでメリハリがあってよいのですが、画角が狭くあまり実用には適しません。

13mmを標準にするにはセンサーサイズ1/2インチくらいのWEBカメラがよさそうです。(レンズのイメージサークルが充分に大きければ、ですが)
そんなWEBカメラが手に入ったらまた改造しましょう。