シネレンズ、ペッツバールレンズのぐるぐる世界と、デジカメでの楽しみ方。The Petzval lens, the Spiral world of 8mm cine lenses on digital cameras.

 昔、フイルムのムービー撮影は非常に高価であった。1955年ごろから、比較的手頃に撮れる小さな8mmシネカメラが日本でも普及し始める。手頃といってもまだ高価であり、レンズも高性能なハイスピードレンズが好まれた。1960年代になると、画角変化できるズームが主流になり、レンズの描写力自体は劣化してしまった。

 1955年から1960年、わずか5年ばかりの間にうまれた単焦点の8mmシネレンズがこのエッセイのテーマである。

8mmサイズのフィルムという極小フォーマットのため焦点距離は短く、標準レンズが13mm。広角が6.5mm。望遠が25mmと38mm。f2以上の明るいレンズが多く、F1.1なんてものもある。これらが主にフランジバック12.3mmのDマウントを介してボディに装着される。

 これらが高性能だった理由は、ペッツバール型のレンズ構成が使えたことにある。ペッツバールレンズはシンプルな4枚構成で抜けが良く、画角が狭ければ非常に優秀な性能を発揮した。狭い画角で被写体を中心に扱うことの多いシネ撮影と相性がいいのだ。

 ペッツバールレンズ構成は狭い画角で優秀、ということの裏返しで周辺描写は苦手である。極端なまでの像面湾曲と非点収差。この収差が画面周辺に向かって渦巻くような描写を生み出す。ぐるぐるボケとシャープな中心部、このコントラストが特徴になる。

 ここで紹介するレンズは、たまたま手に入ったモノたちだ。もっと有名で良い、面白いレンズもあるだろう。この小さな世界を面白がれる間は、少しずつ増やしていきたい。

 このかわいい高性能豆レンズを、現代のデジカメで体験したい。これがもう一つのテーマになる。結論からいえば、PENTAX Qシリーズの中古カメラにDマウントアダプターを付けて撮影するのが一番いい。でもここでは違う方法をトライしている。もっとコストをかけないで、もっと大きなセンサーで撮ってみたかったのだ。



CINE-T.ARCO 38mm f1.4  (作例)

ARCOは1950年代の高級機メーカーだったが1960年に倒産した。この38mmは2群4枚構成のペッツバール型。イメージサークルは1インチセンサーをカバー。M4/3は4隅が蹴られる。

鏡胴の直径が大きくCマウント改造はできない。Dマウントを外してM42マウントねじを装着、薄型のマウントアダプターを介してM4/3カメラに装着する改造をした。写りは色収差が少なく、きれいな「ぐるぐる」描写が特徴。



YASHICA Claston 38mm f1.4

ヤシカの8mmシネ用38mmは3群4枚、これもペッツバールで「ぐるぐる」する。少し色収差はあるが、中心部はとてもシャープに写る。レンズはDマウントを外して、Cマウントに改造をした。イメージサークルは1インチセンサーをカバー。



CINE NIKKOR 38mm f1.9 (作例)

シネ ニッコール38mmは、さすがニッコールの安定描写。開放では少しペッツバール型らしいグルグルボケになるが、少し絞るとキリッと締まった描写になる。Cマウント改造してNIKON1に装着したが、4隅は大きく蹴られる。




FUJINON 25mm f1.0

フジのプロジェクター用レンズ。固定レンズなのでマウントはない。f1.0と極めて明るく、手に入れてみたのはいいが、バックフォーカスが極めて短く改造しにくい。



KODAK CINE EKTAR 25mm f1.9 (作例)

コダックの16mmシネカメラの普及版レンズだが、「高性能」EKTARブランド。

戦後すぐの1945年から生産された。

4群4枚の変形ペッツバール構成だが、設計が巧みでアウトフォーカス部もグルグルしない。マイクロフォーサーズだと4隅が蹴られるので、NIKON1が最適。



CINE-S.ARCO 13mm f1.4 (作例)

ARCOの明るい標準レンズ。8mmシネの標準は中望遠(70mm相当)くらいの画角だと思う。レンズ構成は4群6枚のたぶんダブルガウスで、ぐるぐるボケはしない。イメージサークルは2/3インチくらい。開放だとフレアがかかり、絞ればシャープにうつる。



YASHICA Claston 13mm f1.4 (作例)(作例2)

YASHICAの明るい標準レンズは3群4枚のペッツバール型。8mm本来の範囲はきちんと写るが、それを超えると猛烈にグルグルする。イメージサークルは2/3インチくらい。



ZUNOW 13mm f1.9 (作例)

開放ではフレアがかるが、絞ればシャープにうつる。3群4枚のペッツバールだが、描写はけっこう素直でよくバランスされている。イメージサークルは広めで4/5インチくらいある。



CINE NIKKOR 13mm f1.9(作例)

ニッコールのシネマレンズは4枚玉の変形ペッツバールタイプだが、収差が抑えられていてあまりグルグルしない。さすがニッコールの良い写りをする。イメージサークルは2/3インチくらい。レンズサイズは小さく、ニコン1のマウント内に潜り込ませることができた。


FUJINON 13mm f1.1 (作例)

これはフジのAX100(1973年製)に固定装着されたレンズで他よりも年代が新しい。f1.1と極めて明るいレンズで、構成も5群6枚のようだ。バックフォーカスはDマウントよりも短く、改造は苦労する。開放はすこしフレアがかるが、ぐるぐるしないで素直に写る。立体感のある美しい描写をする。



COSMICAR 12.5mm f1.4 (作例)

市塚光学は1950年代にシネレンズを生産した。たぶん輸出用ブランドであるCOSMICARの1/2インチレンズは、16mmシネ用広角として開発され、同じスペックのままTV用になり、そして現在のFA機器のカタログでも確認できる。その間メーカーは市塚光学はペンタックスに吸収され、その後リコーになったが、COSMICARブランドはずっと引き続き使われていた。果たして、本当に同じ設計のレンズが60年以上使われているのか、大河ロマンである。


CINE-W.ARCO 6.5mm f1.4

広角6.5mmの中では前玉も小さくコンパクトなレンズ。レトロフォーカスのレンズ構成なので、小さなレンズがたくさん入っている。フォーカスは固定焦点だが、f1.4の明るさがあるのでパンフォーカスというわけではない。画面全体に均質な素直な描写。イメージサークルは小さく、1/3インチくらい。



YASHICA Claston 6.5mm f1.4

このレンズはARCOと同じスペックだが、大きさは150%くらいある。これも固定焦点のレンズ、レトロフォーカスなので全体に均質。イメージサークルは少し大きく1/2.5インチくらい。(改造WEBカメラによる作例)


ZUNOW 6.5mm f1.9  (作例)

フォーカシングできる6.5mm。ただ被写界深度は深く、どこにピントが合っているのかよくわからない。開放ではフレアがかるが、絞れば4隅までシャープ。イメージサークルも1/2.3インチある。


おもにDマウントシネレンズが撮影できるデジタルカメラ

0. PENTAX QとDマウントアダプターが簡単に楽しめる。

ここで紹介するのはそれ以外で、いろいろ改造することが楽しめる。

1.オートフォーカスでないデジカメからレンズを外し、マウントを付けてオリジナルミラーレスを創る。 (作例)

レンズの最後尾に赤外線カットフィルターがついているので、それを外して移植する必要がある。いわゆるデジタルトイカメラや、少し古いKENKO、HITACHI、YASHICAが使える。

けっこうちゃんとミラーレスカメラになるが、モニターの性能はひくくてフォーカシングは苦労する。


2.ミラーレスカメラにCマウントアダプターを付ける  (作例)

Dマウントレンズの場合は、マウント改造をする。望遠レンズ限定。

3.NIKON1はいろいろ可能性がある。センサー前の空間がマイクロフォーサーズよりも広く、電子シャッターにすればトラブルも防げる。まずは世界初を目指して、D-NIKON1マウントアダプターを製作してみた。

4.  Webカメラにレンズ装着改造 (作例)(作例2)する。私はWebカメラユニットを分解して、フィルムの代わりに8mmカメラに入れてみた。

WEBカメラもスマホとつなげて外に出てみる(作例)




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