もともと35ミリフィルムは映画用でハーフサイズが標準であり(シネカメラではフィルムは縦送りになるからこのサイズになる)、ライカがそれを静止画用に2倍サイズで横長画面にした経緯がある。そのため35mmフィルム当初から「ハーフサイズカメラ」は存在していた。
聡明期のハーフサイズカメラで代表的なものはUnivex Mercuryがある。1938年の発売で、ロータリーシャッターなどシネカメラの技術をベースにしている。台数も売れて、改良しながら1964年まで継続した。
Univex Mercury I
http://camera-wiki.org/wiki/Mercury
本格的にハーフサイズが普及したのは、1959年のオリンパスペン。 オリンパスの企画・エンジニアの米谷美久さんの知見から生まれ、大ヒットした。
https://www.olympus.co.jp/technology/museum/camera/products/pen/pen/?page=technology_museum&museum-type=series
米谷美久さんは、メカの合理化を進めて6000円という低価格を実現したが、「ライカのサブカメラ」というコンセプトで高級機に負けない長所を持たせたのが成功したポイントだとおもう。ハーフサイズの長所は、コンパクトでピントが合わせやすく1本のフィルムで2倍撮れること。レンズコストも半分になること。ここで米谷さんは、高級なテッサー構成のレンズとしてコストを掛けた。その結果、半分のフィルムサイズが欠点にならないで、高精細な写真を撮ることができた。
マーケットに出た最初のカメラが高性能で良く写ったことが、この後のハーフサイズカメラのイメージをよくして、マーケット拡大につながったのだと思う。イメージは最初が肝心。それにくらべ、その後のAPSフィルムカメラのズームレンズは性能がいまいちでイメージを落とした…
1962 OLYMPAS PEN EES
https://www.olympus.co.jp/technology/museum/camera/products/pen/pen-ees/?page=technology_museum
オリンパスペンが大ヒットしたため、急速にシリーズ化して機種が増えていく。私は高性能レンズを体験するのが目的なので、レンズスペックが高いものを選んでいる。このEESは自動露出でゾーンフォーカス。3㎝ f2.8と明るくなったテッサータイプのレンズを搭載している。このレンズも大変良い写りをする。
→デジカメでの作例
更に同時期にさらにデラックス版3.2cm f1.9レンズを搭載したPEN-Dも発売。
翌1963年には一眼レフのPEN-F。オリンパスは機種を増やし過ぎの傾向があったと思う。
1962 RICOH AUTOHALF
ゼンマイによる自動巻き上げカメラはいくつもあるが、重くなる欠点があって、名機はすくない。このリコーオートハーフは見事に小さくまとまっていて、とても優れたデザインだ。
ゼンマイ巻き上げノブが脚のようで、全自動カメラをロボットのように見せている。
25mmf2.8という広角レンズを搭載して、無理なくパンフォーカスとしている。撮影枚数の多いハーフサイズにマッチした自動巻き上げ、富岡光学製高性能レンズ。名機であり、1970年台末まで生産を続けた。
1963 FUJICA Half
他から遅れて登場したフジフィルムのハーフカメラ。遅れたわりにはサイズは大きくて重い。レンズも2.8㎝ f2.8とパッとしない感じだが、4群5枚構成と奢っていて写りは大変良く雰囲気のある描写をする。
→デジカメでの作例
フジフィルムはこのあと1964年に、今度はとても小さなFUJICA MINIをだすが、デザインを女性に全振りしてマーケットを狭めた。
1963 CANON Demi
https://global.canon/ja/c-museum/product/film44.html
キャノネットの大ヒット中ということもあって、ハーフサイズブームに出遅れたキヤノンが全力で投入したハーフサイズカメラ。パララックスの少ない凝ったファインダー、優れたデザイン。28mmf2.8のレンズは4群5枚とオリンパス以上におごった構成。この時代、レンズの質の高さを競争していて、いい時代だと思う。
翌1964年には30mmf1.7の高性能版も登場して、マーケットをつかんだ。
→デジカメの作例
1964 KONICA EYE
1965 KONICA EYE2
同じくハーフサイズに参入の遅れたコニカ。差別化で30mmf1.9の大口径レンズを搭載したが上記のCANONにスペックで負けている。デザインも垢抜けない。
1965年にはEYE2にモデルチェンジしたが、特徴的だったロゴまで、つまらなくなってしまった。
大口径レンズでは珍しいビハインド絞りを採用したレンズは、濃厚で切れの良い写りをする。
→作例
このカメラをベースに35mmフルサイズの大ヒットカメラC35がつくられた。
1964 OLYMPUS PEN D2
1962年には早くも登場していたペンの高級シリーズの2台目。4群6枚ダブルガウスタイプ32mm f1.9の高性能レンズを搭載している。カメラのつくりもレンズの写りも素晴らしい。
→デジカメでの作例
1964 YASHICA HALF 17
1966 YASHICA HALF 14
ハーフサイズカメラは女性も使うため、デザインの良さが求められた。その中でもYASHICA HALF17のデザインは素晴らしい。レンズの周りのセレン光電池の収まりも良く、シンプルでかわいい高品質が表現できている。レンズは高品質な富岡光学製32mm f1.7。
しかし大口径レンズの競争も激しく、1966年には32mm f1.4の超大口径のHALF14が登場した。5郡7枚のレンズは富岡光学製でクラシックな感じでよく写る。ただ、カメラとしてはf1.4のうすいフォーカスを目測で合わせるのは無理がある。
→デジカメでの作例
1967 OLYMPUS PEN EED
大ヒットしたPENシリーズも35mmフルサイズのコンパクトカメラの小型化の動きに押されて売れなくなってくる。このEEDはPENシリーズの末期に近い。レンズは高性能な32mm f1.7だが、プログラムオートを実現するためにチープな2枚絞りになってしまった。→デジカメでの作例
1960年代に大ヒットしたハーフサイズカメラだが後半になると、35mmフルサイズのコンパクト化、カラーフィルムと同時プリントの普及があって、(同時プリントで72枚プリントするとすごい金額で逆に割高な感じがする)その結果、人気が無くなった。1970年代には新型カメラは発売されなくなった。
その後1980年代後半、オートフォーカス技術がまだ未熟なとき、フォーカスが合いやすい、高倍率ズームでも巨大にならない、という利点からズーム固定のハーフサイズ一眼レフカメラKYOCERA SAMURAIがヒットした。しかしすぐにAF技術は向上し、35mmフルサイズに人気は戻った。
1990年代後半、新しいフィルムシステムとしてAPSが発売されたが、そのフィルムサイズはハーフサイズとほぼ同じである。画質と大きさのバランスが合理的なのだろう。
2000年代は写真がデジタル化する。一眼レフなどのシステムカメラはAPSサイズセンサーを使う場合が多い。ちょっと大きめの35mmフルサイズに対して、コンパクトなハーフサイズ。この傾向はデジタルになった今も、これからも続いていくのだろう。
ハーフサイズはカメラの歴史とともにあるのかもしれない。
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