ニコンの本気、ミニマムレンズ構成の実験: ニコンおもしろレンズ工房/ Nikon Fun Fun LensSet : The experimentation of minimal lenses configurations by Nikon.



ぐぐっとマクロ macro 120mm f4.5

ふわっとソフト soft 90mm f4.8

(ぎょぎょっと Fish-eye type 20mm f8 についてはこちら)

ぐぐっとマクロ/ふわっとソフトは、1995年発売されたニコンのトイレンズ「おもしろレンズ工房」のひとつである。時代はバブル崩壊後の経済低迷期。そのためこのような、気軽に買いやすい企画が実現できたのだろう。


このレンズはモジュール構造が特徴。フォーカス調整カムのある外鏡胴と、レンズと内鏡胴がモジュールになっていて、組み換えることでマクロとソフト、2種類のレンズになる。


テレフォト2群3枚構成の「マクロ120mm」と、その前玉だけ裏返しで使う1群2枚の「ソフト90mm」、さらにバックフォーカスを伸ばしてさらに寄れるようにする工夫もできて楽しい。

ぐぐっとマクロ macro 120mm f4.5


ぐぐっとマクロ 120mm f4.5

まずはマクロ120mmにして撮影してみよう。
ぐぐっとマクロ macro 120mm f4.5
うーむ。2群3枚構成なのに、遠景からよく写る。

さすがにデジタルでは色収差がでる。紫と緑のフリンジがでている。


フォーカスは単純なカム。コストのかかる長大なヘリコイドは使われていない。
スムーズさは足りなく、速すぎて、精密に合わせにくい。



ぐぐっとマクロ macro 120mm f4.5



さすがマクロ。近距離の描写がよい。しかし、ボケはざわつくときがある。



マクロの120mmは、遠景から良く写る。ミニマムな2群3枚構成レンズなこともあって拡大するとアラが見えるが、総じて抜けの良い気持ちの良い絵になる。

クローズアップも良く写るが、開放f4.5では被写界深度は浅い。撮影していて、もう少し絞りたいことが多かった。



ふわっとソフト 90mm f4.8
モジュールを分解、後ろ玉を外し、前玉を前後逆に装着すれば、「ふわっとソフト90mm f4.8になる。レンズ構成は1群2枚だ。



ハイライトにフレアーが取り巻く、ドリーミーな描写。ソフトレンズだ。ちょっとソフトすぎる気がするので、もう少し絞りたい。


ふわっとソフト soft 90mm f4.8


ふわっとソフト soft 90mm f4.8

点光源を写すと、ふわっとフレアーの実際がわかる。芯のある円形のフレアがくっきりと見える。本格的な?ソフトフォーカスレンズはわからないが、描写はホルガ(ガラスレンズ)の絞りを開いたものに似ている気がする。

90mm中望遠は、お散歩スナップに使いやすい。でもソフトフォーカス効果は個性的。

面白すぎなところもあり、撮影の時は絞りで調整したくなる。




感じたのは、ニコンはトイレンズと言いながら、写りは本気のところだ。

開発ストーリー(https://nij.nikon.com/enjoy/life/historynikkor/0052/index.html) を読むと、3群3枚トリプレット構成よりもシンプルにすることを目標にしている。トリプレットならば写真レンズの基本形なので無難にまとめられるが、それよりもシンプルというと工夫が必要になる。ニコンは本気でこのミニマム構成レンズを開発している。そして、ものづくりでは、その本気の工夫が面白いのだ。


でも、大事なことは、ものづくりの面白さが、ユーザーの面白さにつながるかである。

今回楽しく撮影できたが、カメラがミラーレスデジタルだったことが大きい。マニュアルフォーカスで固定絞りでも、フォーカスアシストや自動感度調整によって使いにくくならない。

このような簡易レンズは、現在こそ必要な気がする。

とはいえ絵作りという視点では、絞りでコントロールができないのは面白くない。レンズがよいだけになんとかして絞りをつけてみたい。












あだ花を愛でる。APSフィルムカメラのレンズたち。Finding the good lenses for APS film cameras.


APSは、iX240フィルムを使用する「アドバンストフォトシステム」で、アナログフィルムに先進的機能を追加した規格である。1996年にコダックが開発、各社を巻き込んで発売した。

実はコダックが35mmフィルムの改善をコンセプトにするのは2回目である。

1回目は1963年のインスタマチック(126フィルム)。35mmフィルムと同じ幅のフィルムを、巻き上げリールも一体のカセットにした。それにより簡単装着を可能にして、60,70年代に大ヒットした。消耗品であるフィルムが複雑な構造であり、カメラ本体は単純な構成になる。フィルムの平面性/大きさ/コストに欠点があり、35mmフィルムカメラの高機能化にしたがって姿を消した。

2回目のAPS (1996年)では、フィルムのオートローディングと磁気記録を組み合わせて高度な自動化を達成している。フィルムの高性能化を理由に、小型化してコンパクトにした。富士フイルムやカメラメーカー各社も規格に参加して大きな広がりを見せた。
左が35mm、右がAPSフィルム。フィルムの幅は2/3の小ささ。


しかし強みだったコンパクト化や自動化は日本の得意技で、旧来の35mmフィルムカメラでも実現できた。35mmフィルムに対するアドバンテージは薄まり、さらに新しく産まれたデジタル写真も進化。中途半端なAPSフィルムは存在価値を見出せないまま人気はなくなり、2011年にフィルム販売を終了した。

大規模な新規格の失敗をしたコダックは、APSと同時に、2012年1月に倒産した。

APSが実質的に存在していたのは10年間。1996年の発表から最後のAPSカメラが2004年。(たぶん最後はFujifilm Q1zoom、ほとんど売れなかったと思われる)

デジタル化の流れの中でそれなりのヒット作もあったが、残ったのは画素センサーの「APSサイズ」の名前くらい。ほとんどなにも残らなかった 「あだ花」 である。撮るフィルムが無くカメラが消えていく今、あえてそのレンズたちに光を当ててみようと思う。

ミラーレスのデジタルカメラで、改造したレンズ を中心にレヴューをする。
(レンズ/カメラ名のクリックで作例になります)


APSフィルム一眼レフ用交換レンズ
専用レンズはニコン、ミノルタの2システムが発売された。


◼️ IX Nikkor
Nikon PRONEA シリーズ用の専用レンズ。マウント自体は通常のFマウントだが、マウント内に出っ張っていてPRONEA以外には装着できないし、マウントアダプターとも干渉しやすい。その場合、アダプターの干渉部分を削除する必要がある。アダプターは、絞り操作のできる「Gタイプ」マウントアダプターで内径の大きいものが良い。

私の持っているレンズは、どれも小型軽量、素晴らしい描写でさすがニッコールだと思う。


⚫︎IX-NIKKOR 20-60mm f3.5-5.6



前後期型モデルがあるが光学系は同じ(一部コーティングが違うらしい)。万能で軽くて使いやすく良い描写。フルサイズでも24-60mmで使える。


⚫︎ IX-Nikkor 30-60mm f4-5.6



アダプターを付けても小型軽量なレンズ。APSデジタルでは、標準から中望遠ズームになる。
イメージサークルが広く、なぜかフルサイズでもそのまま標準ズームとして使える。理由はニッコール千夜一夜に楽しい。https://www.nikon-image.com/enjoy/life/historynikkor/0083/index.html



⚫︎ IX-Nikkor 60-180mm f4.5-5.6


このレンズも前期後期があり、後期型が少し暗いがより軽量。小型軽量に惹かれて後期型を購入。フルサイズでも(60mm時の隅がボケ気味だけど)使える。



◼️ MINOLTA V

MINOLTA Vectis シリーズは専用のVマウントを使うシステム。絞りもフォーカスもレンズ内モーター駆動になる。機能的で先進性のあるシステムだったが、レンズ改造は難しい。


⚫︎V 22-80mm f4-5.6

V 22-80mm f4-5.6

V 22-80mm f4-5.6

デジタル用の改造ではフォーカスをどう動かすかが問題になる。特にこの22-80mmはインナーフォーカスでマニュアルフォーカスができない。そのため マウントを付け替えてヘリコイド中間リングでフォーカスをするように改造した。

コンパクトな高倍率ズーム。イメージサークルは フルサイズはカバーしない。
APSデジタルで撮影。ミノルタらしい、線の細いやさしい描写をする。



APSフィルムのコンパクトカメラは、小さいことが35mmフィルムカメラとの差別化であった。そのため無理に小さくしたズームレンズが多く、画質は低下してAPSフィルムの評価も下げた。そんな高倍率ズームは避けて、描写力が期待できて改造しやすい単焦点レンズを中心に紹介する。



1996年発売


◼️KODAK ADVANTiX3700ix
レンズはガラス製3群4枚のテッサー構成、ちょっと大きめのコンパクトカメラ。描写力はまあまあ良い。

3群3枚ガラスレンズ。中心部の写りは良好だが隅はもうちょっと。印象として、悪くないけどそれほどでもない。





◼️ KONICA S mini
廉価版の普及機。ビッグミニS100と間違えて購入したSミニ。「コニカS」も昔あったので紛らわしい名前だ。しかも安かろう悪かろうで評判は悪い。Konica Lens 25mm f6.7 、3群3枚レンズ。

たぶん一番売れたAPSフィルムカメラ。2群2枚のプラスチック非球面レンズはそれなりにまあまあの写り。



日東光学によるOEM製品だが、ほぼ同じ仕様のOEMカメラがたくさんある。同じ中身で商売し過ぎではないのか?見たところ以下のカメラがあるが、もっとあるかもしれない。

FUJIFILM EPION 100/KYOCERA ULTIMA 100/MINOLTA VECTIS UC

25mm f4の3群3枚トリプレットレンズは、中心はキレ良く周辺に向かって緩くなる。撮影して、なかなか良い印象。




1997年発売

◼️OLYMPUS NEWPIC AF200

名機ミューを思わせるカプセルカメラ。デザインはガチャガチャしていて、ミューほどカッコよくないが、オークションでよく見るので結構売れたのだはないだろうか。
27mmレンズは3群3枚のガラス製だが、f6.7と暗いレンズだ。



◼️GOKO FR-2200
GOKOは1980から90年代、世界最大だったコンパクトカメラOEM製造メーカー。ユーザーの使い方の考察から、失敗の少ない撮影モードをシンプルに実現する「ユニバーサルフォーカス」コンセプトを発明、AFメカ無しの低コストカメラを普及させた。写真の民主化、カメラのデフレ?を推し進めた。

このFR-2200はさらに、失敗しないマクロ撮影も面白く実現して「日本の歴史的カメラ」に選ばれている。レンズはマクロ対応の25mm f6.7 トリプレットレンズ。
APSフィルムカメラを代表する名機。スタイリッシュでコンパクト、搭載レンズは4群4枚26mm f2.8の単焦点で、とても良く写る。


CANON IXY310

CANON IXY310


◼️CONTAX Tix
素晴らしく高品質なデザイン。無理をしないコンパクトサイズとレンズ設定で、まさに高級機。こんなカメラだけあってフィルムがないのは罪だと思う。カメラはまだ生きているのだからメーカー(京セラ)がフィルム供給サービスをしたら良いと思うのだが。

高級機で大事に使われたようで程度の良い中古が多く、部品取りになるような「重ジャンク」はまだ見つかっていない。




1998年発売


◼️Fujifilm EPION 1010 MRC TIARA ix

搭載レンズは低分散ガラスを使ったトリプレット3群3枚構成。24mm f3.5 このレンズもとても良く写る。
Fujifilm EPION 1010 MRC TIARA ix

ガラス製3群3枚のトリプレットレンズ。固定焦点のため被写界深度の深い設計。けっこう緻密に良く写るが隅の描写はあやしい。





1999年発売

3群3枚24mmレンズは、中心部は緻密でシャープに写る。オリンパスは「ミュー」のレンズも評判良かったが、トリプレットレンズの設計が上手だ。




2000年発売

◼️CANON IXY D5
3枚レンズ、トリプレット構成23mm。固定焦点向けの被写界深度の深い設計で、そつなく写るがそれほどシャープでもない。

5群5枚構成 24-48mmの2倍ズーム。シャープで立体感のある素晴らしい描写力。ただ、レンズ改造はし難い。




2001年発売

◼️Fujifilm nexia Q1
APSフィルムカメラ、最後のヒット。21世紀になって、時代はデジタルになったが、企画が素晴らしく若い女子に大ヒットした。たった2枚の22mmレンズもそれなりに写る。



2004年発売

◼️Fujifilm nexia Q1 ZOOM 
時代はすでにデジタルで、遅れすぎたカメラ。ほとんど売れなかった最後のAPSフィルムカメラ。そしてレンズは驚きの2群2枚のズームレンズ。驚きのミニマム構成だが、これが驚くほど良く写る。




2011年 APSフィルム販売終了































すっきりコントラストのミニマムズーム  IX-Nikkor 30-60mm f4-5.6 : Clean contrast, a minimal good zoom lens.

 IX-Nikkor 30-60mm f4-5.6

1998年発売。APSフィルムの入門機プロネアSとセット販売されたコンパクトな標準ズームだ。翌1999年に発売が終わり、最後のIX-Nikkorでもある。

APSデジタルでは換算45-90mm、標準から中望遠ズームになる。アダプターを付けても小型軽量で使い勝手がよい。

(APSフィルムは9:16の横長画面で、35mmフルサイズ換算は1.25倍。APSデジタルは2:3の画面で換算1.5倍くらいになる。)

良いのだけど操作性には欠点がある。AFは連動しないのでマニュアルフォーカスだが、AF用だったレンズにフォーカスリングはなく、内鏡胴を直接回す事になる。

鏡胴は軽くスムーズにまわるが、指がかりは小さくフォーカス移動も速すぎる。鏡胴先端にフィルター(46mmサイズ)とかフードをつけると、少し回しやすくなる。

絞りリングもない。Gタイプ対応のマウントアダプターで絞れるが、数値はわからないので適当に絞ることになる。

欠点もあるが、小型軽量であり、小さなAPSデジタルカメラにつけると気分も軽い。散歩のお供にちょうど良い。



広角端と望遠端。歪曲もあまり気にならず、四隅までしっかり写っている。APSデジタルではイメージサークルに余裕があるので、周辺減光も気にならない。

立体感があって、コントラストもしっかりしていて気持ちいい描写。色収差も少ない。



サギはずんぐりしていてかわいい。実は長いサギの首は折り畳み収納式。畳んだ時はずんぐりする。







f値は暗く、大きくぼかすのは難しい。前ボケは綺麗だが、背景ボケはうるさくなりやすい。


このレンズ、イメージサークルに余裕があって、フルサイズまでカバーしているようだ。


フルサイズ広角30mm、隅は少し甘くなるが、普通に撮れる。





このIX-Nikkor 30-60mm f4-5.6 は、APSフィルムカメラ専用で小型軽量、低コストな標準ズームでしたが、立体感があってすっきりとしたコントラストの良い描写です。なかなか楽しく撮影できます。
私はAPSデジタルで、コンパクトな標準–中望遠ズームとして使うのが好きです。カメラも含めて気軽で、レンズのコンセントにもあっているのでしょう。

APSフィルム専用ですが、なぜかイメージサークルが広く、フルサイズでもそのまま使えるのも大きな特徴です。その理由、技術的で面白い話は、ニッコール千夜一夜で解説されています。

https://www.nikon-image.com/enjoy/life/historynikkor/0083/index.html