YASHICA 35 YL / YASHINON 4.5cm f1.8 ズノー製ヤシノンレンズを味わう。Savoring the ZUNOW-made Yashinon lens.

 


YASHICA 35 YL  /  YASHINON 4.5cm f1.8   (1959)

1949年に長野県諏訪市で創業したヤシカは、はじめは小さな会社だったが、1953年に2眼レフカメラを発売、そこから1950年代から60年代にかけて急成長、世界有数のカメラメーカーになった。

急な拡大を支えていたのはOEMとM&Aである。長野県諏訪市周辺には多くのカメラ/光学メーカーがあり、トップレベルのクオリティをOEMでコスパ良く提供していた。そんな中でもニッカカメラ、ズノー光学、富岡光学などはM&Aでヤシカに吸収されていった。


1950年代から60年代の急成長期のヤシカは、ヤシカ内で競合する機種を開発していたように見える。

当時、カメラ技術は急発展中であり、選択と集中による合理化よりも、メーカー内での競争を重視したのではないだろうか。じっさい目まぐるしい新製品の発表で、マイナーチェンジは月単位で行われていたようだ。



1959年発売の YASHICA 35 YL にも多くのバージョンがあるようだ。Wikiによるとレンズは45mmf2.8と大口径のf1.9だが、それ以外にf1.8バージョンが「2つ」あった。

急成長していたヤシカは同じ45mm  f1.8のレンズ生産を、2社にOEM発注していた。同じ設計のレンズならわかるが、別メーカー設計で個性の違うレンズである。それがズノーと富岡光学、今では伝説になった2メーカーのOEMである。

この2つのレンズはどちらも評判がよい。

ちなみに、このあと1960年発売のYASHICA LYNX1000も同様に2種類の45mm f1.8レンズをもっている。

YASHICA 35 YL,ZUNOW

今回は1959年発売の YASHICA 35 YL、ズノー製レンズ(と思われる)を搭載したモデルを改造してデジタル撮影をする。

今回もジャンクカメラを手に入れた。結構傷んでいて銘板もない。

YLはシャッターと絞りが連動する「ライトバリュー」装置がついている。よくできているが、今となっては複雑で使いにくい。改造もしにくい。


レンズシャッターカメラの分解

1. ボディ前面のレンズボードを分解する。

2. レンズボード後ろからレンズ後群のユニットを外す。

3. レンズの裏にある25mmのリングナットを外せば、フォーカスヘリコイドからレンズ本体が外せる。

4. こんどは前側からシャッターユニットが見えるまで分解。

5. シャッターのメカを外し、シャッター羽根を開放して、固定する。固定はいつも適当で、分解して出てきたバネを使って開放方向に引っ張っておくようにすることが多い。

6. レンズからヘリコイドは外したので、フォーカスはヘリコイドアダプターを使う。

レンズシャッターのM25ネジとM42マウントを繋げるアダプターリングが買えれば簡単。

M25 p0.5とM42 p1.0 をつなげるリングだ。探せば通販で手に入る。

私の改造では、無限遠に合わせるスペーサーと、ヘリコイドアダプターの隙間隠しを兼ねて、3Dプリンターで制作することが多い。

ヘリコイドアダプターはM42ヘリコイドリングの薄いものを使う。今回は17-31mmを使った。

YASHINON 4.5cm f1.8 / ZUNOW

コンパクトカメラ用のレンズは一眼レフ用みたいに大きくないので、ミラーレスカメラに付けたときにバランスが良い。これで撮影だ。


開放f1.8
中心はシャープ。周辺になるとフレアで滲むが、それでも何とか解像している。1959年のレンズと考えれば、いいレンズだとおもう。描写がシャープなので、ピーキングでフォーカスも合わせやすい。

色収差はある。開放f1.8では、手前が赤、奥が緑に鎖に色がついた。当時のフィルムに比べてデジタルは高解像だからしかたがない。


気になることは少なかったが、樽型の歪曲がある。



ボケがこのレンズの個性だ。球面収差過剰補正によるリングボケ/2線ボケだが、絶妙なフレアが取り巻いて妖しく優しく写る。

木漏れ日はボケてもコントラストが強く、不思議な世界になった。














この、(たぶん)ズノー製45mm f1.8は、ボケが妖しく美しいレンズです。
ボケは2線ボケになりやすいが、同時にフレアも発生して、妖しくも美しい世界を作ります。

絞ればよりシャープに写りますが、それでもフィルムっぽい、というか昭和っぽいノスタルジックな味わいがあります。
現在の無収差に近いレンズ設計ではなく、残った収差をいなしながら美しく画像をまとめ上げる。そんな職人的なレンズ設計が「昭和っぽいレンズ」の味なんじゃないかな、と思うのです。
 
このレンズは、現代の世界をノスタルジックな昭和中期に引き込む力があります。よくあるセピアカラーにする手法ではなく、レンズの描写で創るイメージです。こんな交換レンズの考え方も面白いのではないでしょうか。






























HEXANON 38mm f1.8 (KONICA AUTO SE/C35 FD)気楽で奥深いスナップレンズ A casual yet deeply captivating snap-and-shoot lens



 1968年から70年代、コニカC35シリーズは気軽に撮れるコンセプトでコンパクトカメラの大ベストセラーだった。

1973年にシリーズ上位機種、KONICA C35 FD が発売。通常のf2.8よりも明るい38mm f1.8 レンズを搭載した。

簡単操作が売りのC35の中で、シャッター優先など、露出操作できる唯一の機種だった。レンズ描写の評判も高く、C35 FDは現在でも中古の価格が高い。

前回C35初代のレンズを使って、シャープなキレの良さを気に入った。FDの大口径レンズも体験したいが、安いジャンクはなかなか見つからない。ということで、、、




KONICA AUTO SE 
その少し前、1966年発売のカメラがある。故障が多く失敗といわれるカメラで、流通は少ないが壊れたジャンクが安く手に入る。このレンズが HEXANON 38mm f1.8 で KONICA C35 FDと同じレンズのようだ。このレンズを改造しよう。


故障の原因は、初期の自動露出セイコー製シャッターだと思うが、それ以外にもファインダーやいろいろ問題があるジャンクだ。これからレンズを外して改造する。


レンズシャッター機の分解は、後ろから。

後部レンズユニットを外せば、レンズをヘリコイドに固定している25mmのリングナットがはずせる。これでレンズはポロリと取れる。

やりにくい時は貼り革をめくってレンズボードを外す。そしてレンズボードの後ろから分解するのが簡単だ。

セイコーESシャッターは絞り兼用で、閉じた状態。これをがんばって開放化すれば、フィルム感度設定リングで絞りを操作できる。


ガウスタイプのレンズ構成なので、焦点距離38mmでもフランジバックには余裕がある。

もともとのフォーカスヘリコイドは外したので、M42マウントのヘリコイドアダプターを使う。間をつなぐパーツは3dプリンターで造る。

全長11mmのヘリコイドアダプターを介してソニーEマウントに装着できた。






HEXANON 38mm f1.8


ちょっとしたフードが内蔵されている。内部反射の多いオールドレンズには効果がありそうだ。

ヘリコイドアダプターでフォーカスするので最短撮影距離が短くできる。5mmのストロークで30cmくらいまで寄れる。

絞りの操作は感度設定リングで行えるが、f 値は分からない。直接、見て確認する。

絞り操作は重くなってしまって、押さえながらでないとスクリューマウントが外れてしまう、、、、これは改良の余地がある。


さあ撮影。まずはf1.8開放で撮ってみよう。

遠景で開放、一眼レフ用レンズみたいに良く写る。大口径f1.8なのにシャープ、ハイライトは少し滲む。




下は中心の拡大。ボケは見事なリングボケ。解像重視の「過剰補正型」なのでしょう。
色収差は少しあるけど、あまり気にならないかな。





開放のボケは少しグルグルもして個性的。シャープな「花桃の果実」との対比は、ちょっと不思議な世界を描く。




絞っても、ボケのうるささはあまり変わらない感じだが、フォーカス部はさらにシャープになる。









1966年発売のオールドレンズ。コーティング性能は低い。組み込みの短いフードは効いているが、正面の逆光には弱い。










ヘキサノン38mm f1.8は、大口径でもシャープですっきりと写る良いレンズです。
KONICA AUTO SEのレンズはコーティング性能の低いオールドレンズなので、逆光には弱いです。その後、1970年ごろにコーティング性能は飛躍的に向上しました。
1973年発売のKONICA C35 FDのレンズはコーティングがよくなっていると思います。

準広角38mmは気軽なスナップショットに向いていて、大口径 f1.8のボケを活かそうとするとちょっと難しい。でも、うるさいけどクリアなリングボケの世界は、きれいで個性的な魅力があります。

気楽に撮れるけど、活かそうとすると難しくて奥深い。面白いレンズでした。










 

KONICA C35 初代 HEXANON 38mm f2.8 のレンズで遊ぶ

 

1968年、画期的な小型サイズで大ヒットしたコニカC35は、レンズの評価も高かった。

初代C35のレンズをデジタル用に改造する。



C35に影響を与えた超小型フルサイズ、Rollei 35

その2年前1966年 画期的にコンパクトな35mmフィルムのカメラ、ローライ35が発表された。


ローライ35は、ハーフサイズカメラよりも小さなフルサイズカメラで、ドイツのHeinz Waaskeによって設計された銘品だ。小さく精密に作ることが得意な日本人技術者にとって、それは挑戦すべきモノに見えたのだと思う。

コニカはハーフサイズカメラEYE2を作っていたが、それよりも小さなローライ35を見て設計を見直したのだろう。中身を少しずつ詰めていけば、同じ大きさで35mmフルサイズカメラが作れると。
こうして、コニカC35は生まれたのだとおもう。フルサイズながらハーフサイズカメラ「コニカEYE2」と同じ大きさで、ローライ35を除けば画期的にコンパクトなカメラだった。

ローライ35は小さくするのが目的なところがあって、使い勝手にクセがある。その点コニカC35 はクセなく使いやすく、距離計までついたフルスペックのカメラだった。

当時の日本は旅行ブームが始まったところで、持ち運びしやすい小さなC35は、「ジャーニーコニカ」のコピーで大ヒットした。


アイツとジャーニー、開発ベースモデルと比較

C35は、ハーフサイズカメラ EYE2をベースに開発された。
ジャンクカメラがあるので、比較してみてみよう。
上側が今回購入したジャンクなC35、下側が前回レンズを外したジャンクなEYE2。




同じレンズシャッター、同じ基本構成。
上側のC35は少しボディが厚い。この数ミリ分を使ってフルサイズ化しただけでなく、レンジファインダーのスペースまで確保した。
自動露出用のモーター(?)を横から縦配置にしてスペースをつくっている。こうしてみるとハーフサイズ用のフィルムコマ数メーター(72枚まである)は大きい。


底面側のメカはほぼ同じレイアウトである。



アトミック・テッサー、HEXANON 38mm f2.8

レンズはフォーマットサイズで大きくなる。ハーフのEYE2が32mm f1.8 (5群6枚ガウス構成でよく写る) だったのに対してフルサイズのC35は38mmだ。

焦点距離が長くなるとサイズも大きくなるが、よくある40mmよりも少し短く38mm、しかも全長が短くなるテッサー構成にしてレンズ全長を短くしている。

さらに特徴として、放射能のあるガラス(いわゆるアトムレンズ)を使っている。
コニカはC35をできるだけ小さくつくりたかった。そして描写力と両立させるために、高性能な特殊光学ガラスを採用したのだろう。







光学ガラスは、石英ガラスに酸化金属を超高温で混ぜ溶かすことで特殊な性能を得る。レアアース金属、ランタンとトリウムを使った「トリウムガラス」は理想的な高屈指低分散性能を持ち、1960〜70年代、高性能レンズに使われた。
欠点は微細ながら放射能があること。それの影響でレンズが茶色くなること。

放射線はレンズ密着時に0.6マイクロシーボルトを検出。レントゲン程度あるが、数センチ離せば検出されなくなるので、危険はない。
こんなこだわりレンズだが実際のレンズ描写の評価も高く、大ヒットの要因になった。

とはいえ放射能があっては生産性が良くない。1971年のマイナーチェンジ、C35 flashmaticでは通常の光学ガラスレンズに変更されている。


絞りと近距離用ヘリコイド付きに改造

レンズの評判は良いが、気になった点が2つ。
形の歪なビハインド絞り
最短撮影距離は1mもある

ジャンクカメラから抽出したレンズには、円形絞りと近距離用補助ヘリコイドを搭載した改造をしたい。

38mmテッサー構成のレンズはバックフォーカスも短く、ソニー用Eマウントまでの隙間は10mmほどしかない。3Dプリンターで作る補助ヘリコイドにはギリギリのスペースだ。
絞りはレンズの後ろ側で配置しやすいが、補助ヘリコイドをつけると操作できない。レンズにあるシャッターリングに絞りプレート (f5.6) の回転軸をつけて、連動させて動くように工夫する。



製作で苦労するのは無限遠の調整。補助ヘリコイドのストップ位置で微調整する設計にしたのだけど、スペースに余裕がないのでギリギリを狙いすぎた。0.5mmの調整ができずに作り直しをした。

3Dプリンター製作用に、割れにくい強い「タフレジン」を使ったのも問題だったようだ。硬化収縮が大きい。
ヘリコイドの噛み合わせが難しくなるし、歪みが生じる。
私の改造レンズでは、並行精度は3Dプリンター頼みになる。光硬化プリンターは収縮誤差はあるが、構造上、水平精度はかなり良い。今回の改造でも水平精度に期待していたが、硬化収縮で歪みが出てしまった。

結果として改造レンズは微妙に傾いている。開放では片ボケの症状がでそうだ。
絞りは開放 f2.8 とf5.6 の切り替え。最短撮影距離はレンズの無限遠から1mに加えて、補助ヘリコイドを使って50cmくらいまでは寄れるようになった。



開放 f2.8 の描写。中心部はとてもシャープ。周辺部になるとフレアが増えてあやしい感じがしてくる。

f5.6 に絞るとフレアはだいぶ減って安定してくる。とはいえ周辺部にはまだフレアの流れが少しある。中心部はとてもシャープで、被写体が浮き立って気持ちがいい。

コントラストのつく鎖は色収差が出やすいが、この写真では気にならない。さすが高屈折低分散ガラス。よく補正されている。


もともとの最短撮影距離 1mでは寄れなすぎる。改造レンズでは、補助ヘリコイドをつけたことで、50㎝くらいまで寄れるようになった。
ボケはシャボン玉のようなバブルボケだが、ゆがむ、崩れるでうるさいボケだ。







日の丸構図。中心部の描写は、きわめてシャープで気持ちがいい。















KONICA C35 初代のレンズHEXANON 38mm f2.8のデジタル撮影でした。

38mmという準広角レンズは、C35の大ヒット以降はフィルムコンパクトカメラで一般的になる焦点距離です。明るさや3群4枚のレンズ構成も標準的、地味なスペックです。
ですが、特殊な放射性のある高屈折低分散ガラス(アトムレンズ)を使っていることに興味がありました。

C35の開発目標のRollei35は高級機で、レンズもツァイス設計の高品質なものです。C35も、それに負けない描写を目指したのではないでしょうか。

実際の描写は、開放の隅ではフレアが多いですが、中央部はとてもシャープで被写体が浮き立ちます。f5.6では安定してさらにシャープになりました。スナップ撮影にとても向いていて良い設計のレンズだと思います。

C35は3年後のマイナーチェンジで、欠点も多い放射性ガラスの使用をやめて通常の光学ガラスになります。比較してみてみると同じf2.8ながら、レンズ外径が大きくなっています。描写力が落ちないように設計で工夫したのでしょう。この後のC35も面白そうです。