MAMIYA SEKOR 127mm f3.8 : 重厚な性能 / The Heavy and solid descriptive lens.

 

究極の3群レンズ

1970年発売のプロ用中判機 MAMIYA RB67の標準レンズは127mm f3.8、35ミリ換算63mmと長めである。それはこのカメラはスタジオ撮影がメインで、ポートレートや製品の精緻な写真が目的であり、パースのつきにくい長めのレンズが好まれたためと思われる。

レンズ構成は3群5枚のシンプルなものだが、その構成は独特であり、マミヤとライカでしか使われなかった特徴的なものだ。(たぶん)

MAMIYA SEKOR 127mm f3.8

吉田正太郎氏による名著「写真レンズの科学」には、ライカによるこの構成のパテント(1960年)が高性能な新世代レンズとして載っている。
同じ構成はライカELMARIT 90mm f2.8(1958)で発売されているが、じつはマミヤからは1956年の35II と Mamiyaflex C にもこの構成は使われている。(さてパテントの関係はいかに、、、)

そして1970年に中判機 MAMIYA 67 と交換レンズが発売され、標準レンズがこのSEKOR 127mm f3.8であった。

1970年のカタログより 127mmレンズがついている

このレンズは高性能標準レンズとして、1990年まで長く販売された。
(1990年にモデルチェンジした新型は、近距離撮影時の画質とボケの改善を目的に一般的なガウス構成になった。)



コントラストのしっかりしたマミヤ・セコールは大好きだが、デカくて重いレンズは好きではない。でも調べてみるとRB67のレンズはたくさん売れたようで、結構安い。さらに安いジャンクのカビ玉を手に入れた。

分解清掃

カビているのは後ろ側。後ろ側の後群ユニットは回せば取れるのだが、緩め留めが処置してあって、回すのは簡単ではない。いつものゴムオープナーでは空回りする。サイズの合うテーブルゴム脚を買ってきて力を入れて緩めた。
分解できればレンズのカビ清掃。カビの酷いところは漂白剤でクリアにした。

分解してみて、分厚いレンズが重厚な写りを予感させる。



それにしてもでかいレンズだ。同じ構成の  Mamiya 35II  SEKOR 5cm f2.8  と並べてみる。
重さも760gある。

このレンズをデジタルで撮影したい。
本来は6x7判に近いデジタルセンサーカメラが良いのだけど持っていない。6x7判は35mmフルサイズに比べて4.5倍の面積がある。中心部分しか写らないけど、仕方がない。


自作のマウントアダプター(これもでかい。制作方法はこちら)で、ソニーa7につける。

見た目はでかいが、目盛りがいっぱいあって、結構かっこいいレンズだ。


レンズとアダプターで1.1㎏

いつもの公園にはもっと重いレンズを持った方々がいるけど、私にとっては過去最高に重くて大きなレンズだ。
気軽なスナップショットではなく、もう少し落ち着いた撮影になる。



フォーカス部は、質感もあって良い描写だが、軸上色収差のフリンジがでている。
フィルム用のレンズを、デジタルセンサーで、しかも部分拡大しているのだから仕方がない。想定よりも解像力が求められてしまうのだ。




描写はコントラストよく、質感、立体感がある。
重いレンズを使っていることもあって(?)写りに重厚感がある。と思った。







近距離でのボケはいい感じだと思う。(中距離だとうるさくなる時がある)






ブラシーボ。

第一印象は、重厚な写りだと思った。きっとレンズが重いことも影響しているのだろう。


しっかりとしたコントラストがあり、立体的あるし、質感もある。だから重さの印象と合わせて重厚と感じるのだろう。

いつもは、35ミリフルサイズで100mm超えると「長すぎる」と感じることが多いが、今回、重いレンズを丁寧にじっくりと撮影していると、なぜかそれほど気にならない。

「重い」というのも、ひとつの性能なのだろう。



※画面の4隅が暗くなっていますが、アダプターで少し蹴られているようです。


マウントアダプターの製作はこちら

 

マウントアダプター、史上最大の作戦 ( MAMIYA RB67 - SONY E ) Create The Longest Mount Adapter

 rb67 マウントアダプター


MAMIYA RB67 - E マウントアダプター製作

RB67用のSEKOR レンズを撮ってみたくなって、マウントアダプターを作ることにした。

https://en.wikipedia.org/wiki/Mamiya_RB67


MAMIYA RB67は大柄な6×7判一眼レフで、縦位置対応が特徴。ファインダーは7×7cmの範囲が見える。そのためのミラーが長大になって、カメラ内に大きなミラースペースが必要になっている。

RB67マウントは、最もフィルムから遠いマウントであり、フランジバックは112mmもあるらしい。したがってマウントアダプターは最大になる。実際には市販品もあるようだが、高価だし作ったほうが楽しめる。

このマウントとフランジバックの短い現代のミラーレス、ソニーEマウント(フランジバック18mm)をアダプターで繋ぐ。計算では112-18=94mmの長さになる。


強度とヘリコイドが必要

RB67はレンズも巨大だがマウントも巨大、外径が80mmを超える。レンズが重くて強度が必要なことを考えると、マウントアダプターは金属構造+ボルト結合でつくりたい。


RB67の特徴に、カメラのフォーカス用蛇腹がある。つまり、レンズにフォーカスヘリコイドがない。だからマウントアダプターで対応する必要がある。

アダプター側のフォーカス用ヘリコイドも強度が必要だ。ジャンクレンズを見繕って、昔のヘリコイド付きのテレコンバーターを改造することにした。

Kenko Macro TELEPLUS MC7 : テレコンバーターにヘリコイドをつけたアイデア製品。今使っている中華製のM42中間ヘリコイドリングよりも頑丈で、レンズなどの中身を抜けば、内径も広そうだ。

RB67マウント側は中間リング、結合してマウントアダプターにする。


まずRB67マウント側の中間リングから。タフなつくりだが、これもやたらと重い。中間リング内の中身、レバー連動を外す。

中身のメカを抜いて軽く、レンズのピン押しレバーを削除して、シャッターが開放状態になるようにする。


カメラ側のテレコンも中身をぬいて口径を大きくする。もともとのKマウントを外して、Eマウント(格安の中間リングから外した)をネジ留めする。

中間リングとテレコンをつなぐ。外径の大きく違う二つのパーツを繋ぐのは改造したステップアップリング。薄いアルミ製なので、プラスチック接着で補強しながら寸法の調整もおこなう。ここの強度が一番重要になる。


こんな感じで仮組して試写。撮ってみると無限遠がでない。
標準127mmレンズで無限遠調整するとマウントアダプターの長さは90mm。

RB67マウントのフランジバックは108mmかも

RB67のフォーカスは蛇腹なので、マウントの仕様は厳密ではないのかもしれない。私のもってるレンズでは、RB67マウントのフランジバックは108mmだと思う。



そのままだと絞りは開放で、絞り込みレバーを操作しないと絞りは動かない。絞り込み用にレバーを固定するパーツを追加した。




完成したマウントアダプターは長さ90mm(RB67フランジバック108mm-Eマウントフランジバック18mm)
重さは340gほどになった。標準レンズ127mm f3.8  が760gなので、組み合わせると1.1㎏

それなりにしっかりとできたが、レンズを支えないとヘリコイドはスムーズには動かない。
なかなか重いのである。


搭載したヘリコイドは18mmくらいのストロークで、1mくらいまで寄れる。
これで、RB67のレンズで撮影できる。でかくて重いけど。


MAMIYA RB67 - SONY E mount adapter











3群レンズの究極形 MAMIYA SEKOR 5cm f2.8 / The ultimate 3-group lens

 MAMIYA 35 II       SEKOR 5cm f2.8 3群5枚構成  1956年発売

MAMIYA SEKOR 5cm f2.8

MAMIYA 35 II

MAMIYA 35IIのレンズは、凸凹凸の3群構成で、2、3 群目を張り合わせレンズにした3群5枚の珍しい構成だ。このレンズ構成は、同じマミヤの中判カメラとライカの一部にしか、たぶん使われていない(構成図は分解時に見た目でスケッチ)

しかし、吉田正太郎氏による名著「写真レンズの科学」には、1957年にライカから申請されたf2.8口径のパテントが同様のレンズ構成であり、新種ガラスを使った極めて高性能な、新世代レンズとして載っている。

1958年、そのパテントのレンズがELMARIT 90mm f2.8として発売された。

MAMIYA SEKORとの違いは、レンズ構成の2、3群間が狭く、絞りは1、2群間にある。中望遠レンズだがイメージサークルは広く、中判フィルムもカバーしているらしい。


このレンズ構成はその後、1970年のプロ用中判機 MAMIYA RB67の長めの標準レンズ127mm f3.8(35mm換算63mm)にも使われた。レンズ構成の2、3群間は狭いが、スケールアップされたことで絞りとレンズシャッターが入る。長く使われたが、1990年に近距離撮影時の画質とボケの改善を目的にガウスタイプにモデルチェンジした。

これらの関係はよくわからないが、第一線で長い間使われた究極の3群レンズといえると思う。今回はMAMIYA 35II に搭載された SEKOR 5cm f2.8 をデジカメ用に改造したレポートになる。



















描写は、開放f2.8からシャープ

欠点はボケで、前後とも距離によって汚くなる時がある。中間距離の時、とろけないでザワザワと主張してうるさい。

逆光にも弱い。時代的にコーティング技術が未発達こともあり、抜けの良い3群レンズながら逆光には弱い。フードは必須だ。

それでもコントラストが良く、被写体が引き立つ立体感があって高性能レンズだと思う。

しかしf2.8という口径は標準レンズでは中途半端なのでしょう。同じf2.8でも3群4枚のテッサーはコストが安く、サイズもコンパクトで描写も充分に良い。同じf値では、描写が多少高性能でもアピールし難い。

35mmでは難しかったが、フォーマットの大きなカメラなら中口径は問題ない。主にスタジオで使われる中判カメラの高品質な標準レンズとして、このレンズ構成は長く使われた。

次はそんなレンズをレポートしたい。(カビたレンズだけ手に入れたが、どうやって撮影するか.....)








マミヤセコール独自ガウス型レンズ構成の描写 MAMIYA SEKOR 4.8cm f1.9 : The Sekor's original Gauss configuration lens.


MAMIYA 35 Metra (1958)

1950年代、カメラの価格は世界的に高値安定していた。そのため日本メーカーに価格競争力が充分にあり、その分コストをかけたカメラ開発ができた。日本製カメラは高性能化が進み、レンズも大口径レンズが一般的になっていく。

マミヤも1957年に4.8㎝ f2レンズを開発した。しかしライバルのレンズはさらに大口径化してf1.9が多くなり、翌1958年にはマミヤセコールもf1.9になる。
マミヤは技術のオリジナリティにこだわりを持ち、レンズ構成も独自なものが多い。このマミヤセコール4.8cm f1.9もダブルガウスを独自にアレンジした構成を持っている。

MAMIYA 35 Metra
f1.9のセコールレンズが装着された MAMIYA 35 Metra(1958年製)

メカニカルなデザインがかっこいいカメラだ。今回かなり汚いジャンクを追加で手に入れた。このレンズをミラーレス用に改造する。

貼り革の下のねじでレンズボードを外す。配線がないので構造がシンプルだ。


50~60年代のコンパクトカメラは、汎用レンズシャッターを使っている。そのため、レンズとレンズボードを固定するM25×P0.5のネジは共通だ。

隙間から、そのM25ネジを外す。
アルコールを垂らして、軽い衝撃で緩める
回りにくい時は後部レンズユニットをはずせば(順ネジ、フレアカッターは圧入なのでそのまま外れる)、ナットが回しやすくなる。

汎用レンズシャッター機は、M25ナットでヘリコイドに固定されている。

カメラによっては固着して、回し難いものもある。
過去、無理に回そうとしてアルミナットが引きちぎれたこともあった。
次に固着した個体にあったら、φ28パイプを改造して専用レンチを作ろうと思う。

「M25(p0.5)ネジからM42マウントへの変換アダプター」を活用すると改造は簡単だ。

改造の前に、レンズの分解清掃とシャッターの開放化を行う。

掃除しながら「独自のレンズ構成」をスケッチした。
見た目で描いた部分もあるので正確ではない。また、絞りから後ろの後部ユニットは分解しなかったので反射からの推測である。
MAMIYA SEKOR 4.8cm f1.9
独自のレンズ構成は、中大型カメラに多く使われるオルソメターに似ているが、f2と明るく、ダブルガウスの独自アレンジのようだ。マミヤ以外に見たことがなく、このレンズの撮影体験は価値あるものだとおもう。(以前撮影した時の描写も良かった

前玉の口径が24mmしかないのは問題だ。これが有効口径として、48mmの焦点距離に対してf2にしかならない。マミヤは1958年にf2からf1.9に大口径化したはずなのだが…。
スペックだけは競争力をもたせるため、レンズはそのままで表記だけ大口径に変えたようにみえる。技術にこだわるマミヤが好きだったが、こんなインチキは残念だ…。

絞りの前側、3枚目のレンズは少し黄変していたので測定してみると、わずかに放射線が検出された。含有量の低いランタン・トリウムレンズかもしれない。トリウムレンズは現代の基準で見ても高性能な光学特性を持っている。



MAMIYA SEKOR 4.8cm f1.9

改造レンズの完成。フォーカスリングがついているが、隙間隠しの飾りなので機能しない。ヘリコイドアダプターでフォーカスを行う。アダプターは17-31mmのものが適合して、無限遠(ちょっとオーバーインフ)から35㎝くらいまでフォーカスできて使いやすい。(もともとの最短撮影距離は0.9mと遠い)



開放f1.9ではフレアーが多く幻想的な描写。
絵画的だが、立体感は少ない。周辺減光もかなりある(嫌いではない)。
像面湾曲は少なく、ボケは周辺まで安定している。



f5.6にしぼると、シャープになってフォーカス面が浮き立つ。立体感のある気持ちの良い描写。隅まで安定している。







f1.9開放


絞ればシャープで、立体的な像をむすぶ。

f1.9 

f5.6  
金属の光る鎖は、軸上色収差に厳しい被写体だが、開放f1.9、f5.6ともに色収差はない。とてもよく補正されている。


f5.6
f1.9 点光源を撮ると、周辺部では鳥の翼のような非点収差が発生する。



SEKOR 4.8cm f1.9は、個性的なレンズ構成から、個性的で素晴らしい描写をします。
開放f1.9ではフレアー/周辺減光が多く、とても幻想的。
絞るにつれてフレアーは消えて、f5.6ではシャープになって主題が背景から浮き上がる、立体的な描写になります。

素晴らしいレンズですが、絞りを開けるほどフレアーが増えるので、このレンズ構成ではf2が限界だったのかもしれません。1960年にはちゃんとf1.9の明るさがある新しいSEKOR 48mm f1.9がでますが、レンズ構成は通常のダブルガウスになりました。

このレンズ以降セコール オリジナル  ガウスは開発されていないようです。
長いレンズの歴史でたぶんこれしかないレンズです。f2という明るさだからこそ出せた魅力だと思います。