KONICA C35 初代 HEXANON 38mm f2.8 のレンズで遊ぶ

 

1968年、画期的な小型サイズで大ヒットしたコニカC35は、レンズの評価も高かった。

初代C35のレンズをデジタル用に改造する。



C35に影響を与えた超小型フルサイズ、Rollei 35

その2年前1966年 画期的にコンパクトな35mmフィルムのカメラ、ローライ35が発表された。


ローライ35は、ハーフサイズカメラよりも小さなフルサイズカメラで、ドイツのHeinz Waaskeによって設計された銘品だ。小さく精密に作ることが得意な日本人技術者にとって、それは挑戦すべきモノに見えたのだと思う。

コニカはハーフサイズカメラEYE2を作っていたが、それよりも小さなローライ35を見て設計を見直したのだろう。中身を少しずつ詰めていけば、同じ大きさで35mmフルサイズカメラが作れると。
こうして、コニカC35は生まれたのだとおもう。フルサイズながらハーフサイズカメラ「コニカEYE2」と同じ大きさで、ローライ35を除けば画期的にコンパクトなカメラだった。

ローライ35は小さくするのが目的なところがあって、使い勝手にクセがある。その点コニカC35 はクセなく使いやすく、距離計までついたフルスペックのカメラだった。

当時の日本は旅行ブームが始まったところで、持ち運びしやすい小さなC35は、「ジャーニーコニカ」のコピーで大ヒットした。


アイツとジャーニー、開発ベースモデルと比較

C35は、ハーフサイズカメラ EYE2をベースに開発された。
ジャンクカメラがあるので、比較してみてみよう。
上側が今回購入したジャンクなC35、下側が前回レンズを外したジャンクなEYE2。




同じレンズシャッター、同じ基本構成。
上側のC35は少しボディが厚い。この数ミリ分を使ってフルサイズ化しただけでなく、レンジファインダーのスペースまで確保した。
自動露出用のモーター(?)を横から縦配置にしてスペースをつくっている。こうしてみるとハーフサイズ用のフィルムコマ数メーター(72枚まである)は大きい。


底面側のメカはほぼ同じレイアウトである。



アトミック・テッサー、HEXANON 38mm f2.8

レンズはフォーマットサイズで大きくなる。ハーフのEYE2が32mm f1.8 (5群6枚ガウス構成でよく写る) だったのに対してフルサイズのC35は38mmだ。

焦点距離が長くなるとサイズも大きくなるが、よくある40mmよりも少し短く38mm、しかも全長が短くなるテッサー構成にしてレンズ全長を短くしている。

さらに特徴として、放射能のあるガラス(いわゆるアトムレンズ)を使っている。
コニカはC35をできるだけ小さくつくりたかった。そして描写力と両立させるために、高性能な特殊光学ガラスを採用したのだろう。







光学ガラスは、石英ガラスに酸化金属を超高温で混ぜ溶かすことで特殊な性能を得る。レアアース金属、ランタンとトリウムを使った「トリウムガラス」は理想的な高屈指低分散性能を持ち、1960〜70年代、高性能レンズに使われた。
欠点は微細ながら放射能があること。それの影響でレンズが茶色くなること。

放射線はレンズ密着時に0.6マイクロシーボルトを検出。レントゲン程度あるが、数センチ離せば検出されなくなるので、危険はない。
こんなこだわりレンズだが実際のレンズ描写の評価も高く、大ヒットの要因になった。

とはいえ放射能があっては生産性が良くない。1971年のマイナーチェンジ、C35 flashmaticでは通常の光学ガラスレンズに変更されている。


絞りと近距離用ヘリコイド付きに改造

レンズの評判は良いが、気になった点が2つ。
形の歪なビハインド絞り
最短撮影距離は1mもある

ジャンクカメラから抽出したレンズには、円形絞りと近距離用補助ヘリコイドを搭載した改造をしたい。

38mmテッサー構成のレンズはバックフォーカスも短く、ソニー用Eマウントまでの隙間は10mmほどしかない。3Dプリンターで作る補助ヘリコイドにはギリギリのスペースだ。
絞りはレンズの後ろ側で配置しやすいが、補助ヘリコイドをつけると操作できない。レンズにあるシャッターリングに絞りプレート (f5.6) の回転軸をつけて、連動させて動くように工夫する。



製作で苦労するのは無限遠の調整。補助ヘリコイドのストップ位置で微調整する設計にしたのだけど、スペースに余裕がないのでギリギリを狙いすぎた。0.5mmの調整ができずに作り直しをした。

3Dプリンター製作用に、割れにくい強い「タフレジン」を使ったのも問題だったようだ。硬化収縮が大きい。
ヘリコイドの噛み合わせが難しくなるし、歪みが生じる。
私の改造レンズでは、並行精度は3Dプリンター頼みになる。光硬化プリンターは収縮誤差はあるが、構造上、水平精度はかなり良い。今回の改造でも水平精度に期待していたが、硬化収縮で歪みが出てしまった。

結果として改造レンズは微妙に傾いている。開放では片ボケの症状がでそうだ。
絞りは開放 f2.8 とf5.6 の切り替え。最短撮影距離はレンズの無限遠から1mに加えて、補助ヘリコイドを使って50cmくらいまでは寄れるようになった。



開放 f2.8 の描写。中心部はとてもシャープ。周辺部になるとフレアが増えてあやしい感じがしてくる。

f5.6 に絞るとフレアはだいぶ減って安定してくる。とはいえ周辺部にはまだフレアの流れが少しある。中心部はとてもシャープで、被写体が浮き立って気持ちがいい。

コントラストのつく鎖は色収差が出やすいが、この写真では気にならない。さすが高屈折低分散ガラス。よく補正されている。


もともとの最短撮影距離 1mでは寄れなすぎる。改造レンズでは、補助ヘリコイドをつけたことで、50㎝くらいまで寄れるようになった。
ボケはシャボン玉のようなバブルボケだが、ゆがむ、崩れるでうるさいボケだ。







日の丸構図。中心部の描写は、きわめてシャープで気持ちがいい。















KONICA C35 初代のレンズHEXANON 38mm f2.8のデジタル撮影でした。

38mmという準広角レンズは、C35の大ヒット以降はフィルムコンパクトカメラで一般的になる焦点距離です。明るさや3群4枚のレンズ構成も標準的、地味なスペックです。
ですが、特殊な放射性のある高屈折低分散ガラス(アトムレンズ)を使っていることに興味がありました。

C35の開発目標のRollei35は高級機で、レンズもツァイス設計の高品質なものです。C35も、それに負けない描写を目指したのではないでしょうか。

実際の描写は、開放の隅ではフレアが多いですが、中央部はとてもシャープで被写体が浮き立ちます。f5.6では安定してさらにシャープになりました。スナップ撮影にとても向いていて良い設計のレンズだと思います。

C35は3年後のマイナーチェンジで、欠点も多い放射性ガラスの使用をやめて通常の光学ガラスになります。比較してみてみると同じf2.8ながら、レンズ外径が大きくなっています。描写力が落ちないように設計で工夫したのでしょう。この後のC35も面白そうです。























よく写るハーフサイズカメラのレンズ  KONICA EYE 2 / HEXANON 32mm f1.8 The half-size camera lens that takes good pictures


35mmハーフサイズカメラは、1959年、オリンパスPENの大ヒットからスタートした。大ヒットすれば他メーカーも追従する。コニカは1964年にライバルたちに遅れてハーフサイズカメラを発売した。

遅れて登場したKONICA EYEだが、東京オリンピック、新幹線開通の全日本的イベントには間に合った。カメラブームに乗ってこれも大ヒットとなった。

今回取り上げるKONICA EYE2は、その後継機。

登場は1967年のようだ。モデルチェンジで、感度の低かったセレン光電池から感度の良いCdSセンサーに変更になり、レンズもより明るいf1.8になった。

翌1968年にマイナーチェンジでEYE3になるが、ほぼ同時に同じくらいコンパクトな35mm フルサイズカメラC35が登場した。それが大ヒットしてハーフサイズカメラの人気は急減した。



KONICA EYE2も良く売れたので、現在でも手に入れやすい。壊れたジャンクカメラをレンズ改造目的に手に入れた。


コニカらしいまじめなデザイン。コンパクトカメラだけど、面白みよりも高級感重視だったのだろう。


EYEシリーズはレンズの評価が高い。レンズ構成はガウスタイプだが、シャッター兼用のビハインド絞りがレンズの後ろ側にくる。もともと対称型のガウス構成を非対称に使っているのが珍しい。


シャッター兼用の絞りは、形が悪く、これではきれいなボケは期待できない。円形絞りに改造しましょう。



レンズが持つフォーカスヘリコイドを活かしながら、デジタルカメラ用のEマウントを装着。
新たに制作した円形絞りはターレット式で、開放 f1.8 f3.5 f6.7の3段階。
最短撮影距離が1mでは遠すぎるので、補助ヘリコイドで30cmくらいまで寄れるようにした。

工作は3dプリンター。絞りのクリックが甘く、ズレやすいのが失敗点。ズレると描写が崩れる。



ハーフサイズはAPSデジタルとほぼ同じフォーマットサイズ。
改造レンズを装着するのに相性が良い。

開放 f1.8 からシャープな描写が素晴らしい。ただデジタルでは色収差のフリンジが出てクサリに色がつく。周辺部は像面湾曲もある。

もっと寄れば、像面湾曲は気にならなくなる。

周辺減光は、非対称構成の影響だろうか。このくらいは絵が引き締まるので、欠点ではない。

















描写は開放からシャープで、さすが名品ヘキサノンです。少しフレアがあって柔さがありますが、f3.5に絞ればそれも消えます。
中間距離の時は、周辺描写に像面湾曲の癖を感じるので、絞りたくなります。
近距離はボケも綺麗で、とても良いレンズだと思います。

KONICA EYE2 (3) はライバルから遅れて登場したカメラですが、その分、レンズ描写力が良いのでしょう。ハーフサイズカメラの流行には遅れ気味でしたが、流行を終わらせた張本人は、「KONICA EYE2 (3) をベースに開発したフルサイズカメラKONICA C35」だったわけですから、メーカー的には問題無しですね。




















初期マクロレンズ近距離補正の効果 MAMIYA SEKOR MACRO C 140mm f4.5 : Effects of the macro lens's initial close-range aberration correction mechanism.

 

MAMIYA SEKOR MACRO C 140mm  f4.5

 マミヤの6x7 中判カメラ RB67用の交換レンズ、1975年発売の第2世代セコールCシリーズ。マクロレンズである。

140mmは短めの中望遠で、35mm換算 70mm。モノ撮りなどにパースが自然で使いやすい焦点距離だ。マミヤRB67は、フォーカス調整がレンズではなくボディについているので、マクロといっても特別に寄れるわけではない。描写力が近距離対応していることが「マクロ」である。

SEKOR MACRO C 140mm  には、

1975年当時、画期的だった近距離収差補正機構が組み込まれている。

140mmという長焦点で無限遠から1倍を超える撮影まで、マクロ撮影に影響の大きな像面湾曲、歪曲収差、色収差などを抑え込むには、距離による収差変動を補正する機構が必要だったのだろう。



レンズ構成は分厚いガウスタイプ。張り合わせレンズを多用した重厚な構成だ。
近距離収差補正用のリングを回すと、3群のレンズが近距離時は後ろ側に動き、ガウス構成の特徴的な向かい合ったメニスカスレンズ間距離を調整する。4群目も分厚い張り合わせレンズなのは収差変動を抑えるためだろう。

近代ではマクロに近距離収差補正が組み込まれるのが一般的になったが、35mmフィルムの望遠マクロでは同じ1975年のVivitar Series 1 90mm F2.5 Macroが最初のようだ。有名なタムロン90mmマクロは、その影響で開発されたレンズで、1979年に発売されている。
これらの近距離補正は、前側のガウス構成部を繰り出して、後ろ側の補正部がそのまま動かない構成なので、セコールとは設計コンセプトが違う。

標準マクロの近距離収差補正は1973年のオリンパス ズイコー50mm f3.5が世界初をうたっている。レンズ構成を見てみるとクセノター構成の後ろ側の薄いメニスカスレンズを調整している。セコールと同じコンセプトなので、このレンズを参考にしたのではないだろうか。


RB67はスタジオ撮影が中心で、小型軽量化は考えていない。レンズは描写優先で重い。そんなセコールらしい独特な重厚構成が気になって、巨大なレンズを(曇りジャンクで)手に入れた。

レンズは分解して曇りをとる。微妙な曇りは残ったが、ほぼ問題ないはずだ。


近距離補正用の独自リングがある。フォーカスと別に操作が必要で、面倒ではある。
でもどのように補正されるのか、面白そうだ。


中判カメラは持っていないので、大きなマウントアダプターを付けて、35mmフルサイズで撮影する。67判の中心部をクロップすることになる。レンズは巨大で800g(+アダプター340g)の重さがあり、焦点距離140mmは結構な望遠だ。


67判は35mmフィルム(135)の4.47倍の大きさがある

撮影は通常に加えて、近距離補正リングの操作が発生する。もっとも重量級なので、のんびりとしか撮影できない。
まずはマクロらしく、紫陽花を撮ってみる。

開放f4.5 近距離補正:無限遠位置 描写は思ったよりも甘い。

開放f4.5 近距離補正:適正
近距離補正は適正なのだが、フレアがかって甘めの描写だ。

開放f4.5 近距離補正:過剰補正
補正が適正でなければ、さらにフレアがかる。ふわっとしてフォーカスのピーキングもでない。

開放f5.6 近距離補正:適正
絞るとシャープになってくるが、f5.6だとまだ少し甘い。

開放f8 近距離補正:適正
f8まで絞ると、やっとシャープになる。本来は絞って使うレンズなのだろう。



開放f4.5 ハイライトはフレアーがかかって甘くなるが、色収差は少ない。背景ボケはエッジがあってクセがある。


f5.6 シャープになるが、やはりボケにクセがある。










このMAMIYA  RB67のフォーカスはカメラについているので、マクロといっても特に寄れるわけではない。中間リングを使う。近距離補正は1倍を超える大クローズアップまで対応している。
それはヘリコイド付きのマウントアダプターも同様で、中間リングを使った撮影もしてみた。 






近距離の描写は良い感じです。基本は近距離用のマクロレンズなのでしょう。



中遠距離は絞らないと、思ったよりも甘い描写でした。デジカメだとピーキングがでにくく、拡大してもフレアーがかってフォーカスが合わせにくい。
とはいえ、f5.6できればf8まで絞れば、シャープな描写になります。
マウントアダプターでクロップ撮影しているので、開発時の想定よりも解像力が要求されているというのもあります。
また中距離で撮ると、ボケのエッジが強くでて、ボケに癖がでます。


近距離ならば問題ありません。背景は大ボケするので気にはならなくなり、描写自体も悪くありません。近距離収差補正が特徴的なレンズですが、効果は限定的のようで、万能ではないようです。文字通りの近距離用のマクロレンズだったようです。




前回使ったRB67用の SEKOR 127mmは、キレがある重厚な描写が楽しめましたが、
今回のSEKOR 140mm MACRO C は使うシーンが限定的です。
67判の大きなサイズで使いやすいレンズなのでしょう。面積1/4しかない35mmデジカメでは良さがわかりにくく、使いどころが難しい印象でした。