高校生の時に、家の押し入れを改造して暗室を作った。暗室と言っても写真プリント用のそれは真っ暗ではない。印画紙は赤色には感光しないので、赤いライトが使える。そんな赤暗い光の中で、印画紙から像が浮かび上がるのを、酢酸の酸っぱい匂いとともに覚えている。引き伸ばし機は「ラッキー」で、ついていたレンズを使った。使いこなすのに一生懸命で、面白く、ニッコールの高性能引き伸しレンズがあるなんて全く知らなかった。
このEL-NIKKOR50mm f2.8は、ニコンが1956年に作った、最初の引き伸しレンズだ。60年以上前の製品だが、通常の撮影に使っても高性能という評判だ。カラー写真とは無縁の時代の設計だが、引き伸しレンズは色収差をしっかりと補正している。引き伸し機のフォーカスを合わせるのは目に見える可視光線だが、印画紙は紫外線に近い光に強く感光する。そのため広い波長で色収差を補正するらしい。また、紫外線に近いと高性能な特殊ガラスの透明度が悪くなるので、一般的な光学ガラスしか使えない。このような要件からできたのが、このレンズだ。
一番後ろが色消しレンズの変形クセノター(いわゆるエルニッコールタイプ)のレンズ構成である。他にはあまりないタイプで個性的、描写が楽しみだ。また前玉がf2クラスの大きさがある。他のEL-NIKKORもそうだが、周辺光量が減光しないように贅沢な設計をしているためだろう。
引き伸しレンズにはフォーカスを合わせる機構がないので、アダプターで工夫をする。撮影のための機材は、ボディから薄型のM42アダプター、M42ヘリコイド中間リング(25-52mm)、L39-M42変換アダプター。これで無限遠からマクロ域まで撮影できる。軽くてコンパクトで気持ちよい。
開放f2.8で右上の「ハナモモ」にフォーカスを合わせる。被写界深度は意外と浅く、前後はボケる。
その右上の拡大。開放で4隅までちゃんと解像はしているが、コマフレアーが出ている。f5.6に絞るとクッキリ写る。2400万画素に対して十分に解像する。
f2.8開放だと、クローズアップではピント面が薄い。やはり少しフレアーがかる気がする。
f5.6に絞るとグッとシャープになった。どちらもボケはあまりきれいではない。うるさそうなボケだが、同じレンズ構成のEL-NIKKOR63mmよりは安心して使えそうだ。
さすがよく写るEL-NIKKOR 50mm f2.8 だが、ボカすのは得意ではない。開放だと少しフレアが出ることもあって、少し絞った方が長所が出る。
画面全体に均質で、抜けが良い描写が気持ち良い。コントラストが高く、クローズアップでは立体感ある表現ができる。(暗部は潰れやすい気がする)
次はこのレンズをリニューアルした新型と比較してみよう。
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