プラスチックドリーム / The plastic dream : KODAK INSTAMATIC 133X



インスタマチック

1963年に発売。1960年代から70年代、(日本以外で) 大ヒットしたコダックのカメラとフィルム規格である。

写真フィルムはカメラへの装填が難しく、カメラ屋に持って行って装填してもらう人も多かった。そこでコダックはフィルム巻き取りリールまで一体化したカセット方式、ポンと入れるだけのインスタマチックを提案、大ヒットになった。



インスタマチックではフィルム側に、巻き上げ/フィルムカウンター/遮光機能を持っているのでカメラは大幅に簡略化される。一方で消耗品であるフィルムは嵩張り、価格は高くなった。

また、フィルムを平面に保つ構造に欠点があり、レンズが明るくなるとフォーカスが不安定になることから高級化に限界があった。


当時日本ではハーフサイズカメラの大流行中で、写真を撮るコストは大幅に下がっていた。フィルム装着の簡単確実性は大きな長所だけど、インスタマチックは、カメラが安っぽいのにコストが高すぎたのだろう。高機能なカメラが大好きで、手先の器用な日本人にはアピールしなかったのは想像できる。


インスタマチックの良さは、高級感を捨てて気軽さに徹したところにある。プラスチック製のカメラは丈夫で軽く、精密感は皆無で操作も簡単、雑に扱える。そして正方形のフレームは縦横なく、被写体を真ん中に置いて撮影すれば問題ない。(長方形の写真は広く写せる反面、真ん中に被写体を置くと、間延びした構図になりやすい)

インスタマチックは簡単な構造で生産地と種類も多いが、レンズはプラスチック1枚レンズ、43mm f11、パンフォーカスが基本となる。カメラレンズのプラスチック化は、このインスタマチックが世界初のようだ。

中級機300はプラスチック3枚レンズ高級機種x-90はガラスレンズ

フィルムは1988年に生産終了している。




Kodak INSTAMATIC  133x  の改造

133型はインスタマチック全盛期の1968年発売、133xは1970年に小改良したフラッシュ対応型である。主にヨーロッパ向けで、スペイン/イギリス/ドイツ/アルゼンチンなどで生産されたようだ。インスタマチックの機種名は、数字が大きくなると高機能になる傾向はあるが、例外もあり種類も多くよくわからない。133型はシンプルな構造で、インスタマチック標準の43mm f11 の1枚レンズがついている。

汚れた安いものを購入したが、メカはちゃんと動いている。カメラはほとんどのパーツがプラスチック製で軽く、シンプルでおしゃれなデザインは秀逸だ。素敵なカメラだが分解して、1枚レンズを取り出す。

汚れたレンズなので洗浄する。だいぶクリアにはなったが、少し白濁している気もする。その影響は撮影してみないとわからない。

レンズは深いメニスカスで、2mmほど離して固定絞りで絞られる。レンズ径は14mmでf3の明るさがあるが、そのままだと収差でボケボケなので、3mm穴の絞りで収差を目立たなくしている。改造ではこの絞りを可変にして収差の変化も見てみたい。

製作は3Dプリンター。せっかく改造するので、絞りはf11と、f8とf5.6を追加する。1枚レンズで絞りを開けるとソフトフォーカスになってくるはずだ。f8は遊んで、ソフトフォーカスレンズにある「レンコン絞り」にしてみた。


フォーカスはヘリコイドアダプターで最短撮影距離は短くなる。絞りは前面のレバーでf11、f8(レンコン)、f5.6と楽しめる。
さて、撮影してあそんでみよう。

35ミリフルサイズ、f11で撮影。インスタマチックの画面サイズ26×26mmに対して、35ミリフルサイズは24×36mmで、インスタマチックよりも少し大きい。シンプルな43mm1枚レンズは、画面周辺に向かって色収差が目立つようになるが、隅まで解像している。
そして、少し曇りがあるようだ。


もともとのインスタマチックはf11の設定だが、これは絞りを開いてf5.6
解像の周りをフレアがとりまいて、ソフトフォーカスレンズになっている。


f11に絞っていれば、隅までそれなりに写る。ハイライトが滲むのはレンズの曇りが原因なのだろう。60年前のアクリルレンズだ。





f11のパンフォーカスな描写も絶妙なゆるさがあって良いが、絞りを開けたソフトフォーカスも面白い。

43mm f5.6。近距離に寄れば、背景はかなりボケる。


f8はレンコン絞り。ハイライトの部分に絞りのレンコン形があらわれる。これはおもしろいかも。
被写体は分解してレンズを取ったあとのカメラ。プラスチックメッキが美しい。


プラスチック ドリーム

インスタマチックは、世界初のカメラ用プラスチックレンズを採用した。(高級機は例外) 1960年代はプラスチックの黄金時代で、まさに夢に技術だったのだろう。この133Xの43mm1枚レンズも深いメニスカスで、プラスチックだからこその形だ。

今回撮影してみて、60年の経年変化のため少し曇っていた。これは仕方がない。でも、インスタマチックがもっていたと思う「写真を撮る楽しさ」は、とても感じることができた。
















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