最後のEKTAR、コダックの高性能オールドレンズ  / KODAK VR35 K12 / EKTAR 35mm f2.8: The last EKTAR, Kodak's high performance old lens.


総合写真メーカーのコダックは、より多くの人に使いやすいことを目指したカメラメーカーだった。1970年代には、主流の35mmフィルムカメラから撤退し、より小さくて簡単なカメラをフィルム規格から開発していた。


1971年にコダックは110フィルム規格とポケットカメラのシリーズを発売している。小さな16mm相当のフィルムをカートリッジに納めた写真システムは、新たなニーズを産み出して、広く普及した。


その後1982年には、もっとカメラを小さくするコンセプトで、新規格ディスクフィルムシステム/カメラシリーズを発売した。110フィルムよりも小さなディスク状のフィルムは、レンズとフィルム性能の向上で画質を低下させないコンセプトだった。ところが実際にはユーザーの満足する性能に達せず、コストばかり高くなった。これは大失敗して、ディスクカメラはわずか2、3年で姿を消した。


KODAK VR35 K12/K14

1986年、実に16年ぶりにコダックは35mmフィルムカメラ、VR35シリーズを発売した。

当時の35mmコンパクトカメラはオートフォーカスが一般化してきている。ディスクフィルム カメラで失敗したばかりのコダックに開発能力はなく、メインはOEMである。これは失敗したディスクフィルムの穴を埋める企画だったかもしれない。


VR35シリーズは物量で押すコダックらしく、最初から多機種展開している。複数のメーカーが開発しているようだが、固定焦点の普及機からオートフォーカス機まで、デザインは似ている。ある程度のコントロールはしているのだろう。http://camera-wiki.org/wiki/Kodak_VR35

そんななかで、

最上位機種KODAK VR35 K12/K14はコダックとチノンの共同開発である。

生産と主なボディ開発は日本のチノンで、コダックはレンズ開発などをしている。

https://www.chicagotribune.com/1986/08/08/kodak-puts-keepsake-shots-in-easy-reach/

コダックはディスクカメラの開発で、世界初のガラスモールド非球面レンズの実用化に成功していた。その技術を活かしたかったのだろう。

高級な非球面レンズを搭載し、EKTAR銘を与えた。

EKTARはコダック最高性能のレンズだけの特別なブランドで、自社製造の物だけにつけられてきた。高性能とは実際の写りのことで、スペックの高低ではないところが素敵だ。EKTARは名レンズの系譜である。

実際、他のチノンOEM機種にはランク下のEKTANAR、他社高性能品のEKTONブランドがつけられている。これ以降コダックが倒産する2012年まで、EKTARレンズはなく、これが最後のEKTARになった。


この最後のEKTARの写りを体験したい。VR35 K12 を分解して、デジタル用の交換レンズに改造する。

kodak VR35 K12は、オートフォーカスの全自動カメラである。フラッシュが内蔵されたレンズカバーが特徴。もともと大柄なボディの外側に、カプセル状カバーを被せているので、ボディサイズはかなり大きい。

しかも大食いのカメラで、電池はオリジナル規格、当時最先端技術の9vリチウム電池を使用した。(通常の9v乾電池も、容量は少ないが使用できるようになっている。)


カプセルカメラだが、EKTARレンズには保護フィルターがついている。過保護な気もするが、新開発のガラスモールド非球面レンズはキズがつきやすいのかもしれない。気をつけて改造しよう。


レンズは3群4枚構成のテッサー型だ。絞りはレンズの後ろ、ビハインド絞り。

後玉が12mmとけっこう大きく、自作の絞りをつけるとすると、フォーカスヘリコイドとの場所の取り合いになる。結局フォーカスヘリコイドも自作、3dプリンター製フルスクラッチのレンズ鏡筒になった。

フォーカスは回転ヘリコイドで30cmくらいまで寄れる。絞りはf2.8開放とf5.6の2段階、レンズ全面のレバーで操作する。

さあ、最後のEKTARで撮ってみよう。


f2.8開放 中間画角くらいまではシャープに写る。周辺にかけて、解像はしているがフレアーがかかるようになってくる。

f5.6に絞ると、だいぶすっきりとシャープになる。隅の部分はまだフレアの影響を感じるので、遠景を撮るならもう一段絞りたいところ(今回の改造レンズでは、これ以上絞れない)



絞りf2.8開放。バブルボケの描写。背景が離れるとボケは滲んで悪くないが、ハイライトはうるさくなるようだ。


f5.6に絞る。絞ればボケは小さくなるが、ボケ質は同じ傾向。




フォーカス部分は、シャープで抜け良く気持ちがよい。







色が際立つクッキリとした描写。きれいなコダックらしい青。




アート作品。現物は繊細な印象だったが、写真では背景のトーンが沈んで、白い糸とのコントラストが強調された。


夜の公園はf2.8開放。背景は暗く沈み、被写体が浮き上がる。


最後のEKTAR、非球面レンズの癖もなく、抜けよく気持ちよく写るレンズです。

コントラストの強いテッサー構成レンズらしく、暗部は沈み込みます。一方、色味は鮮やかで昔の地味なテッサーとは違うところです。近代のレンズコーティングの効果でしょうか。

絵づくりでは、トーンの沈んだ背景に鮮やかな被写体が際立ち、コントラストで楽しめます。さすがEKTAR、楽しめる良いレンズでした。








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